2008年7月9日

【前半】

上木 賢太 氏 (地球惑星科学専攻・博士課程)

「火山活動から推定する東北日本沈み込み帯のマントルウェッジ、地殻の物理化学条件 」

沈み込み帯は、全固体地球規模の熱進化・物質分化に非常に大きな役割を果たしている(e.g; Iwamori and Albarede,2008)。沈み込み帯での物理化学プロセスを知ることは全地球の物質的・熱的進化を検討するための重要な鍵である。近年、これまで指摘されてきた島弧と垂直な方向の多様性に加えて、火山の分布 (Kondo et al., 1998)、重力異常・厚い地震波低速度域 (Nakajima et al., 2001;Tamura et al.,2002)などから、東北日本弧をはじめとする多くの沈み込み帯のマントルウェッジから地殻に、島弧に沿った方向にもメルト分布と関連した周期構造が存在することが分かった。これらの観察事実は、マントルウェッジと地殻内で溶融の原因である温度や揮発性物質が3次元的に周期的構造をもって分布していることを示している。

本研究では、この溶融の3次元構造に着目し地表に分布する火山岩の組成を用いることで、沈み込み帯マントルと地殻の物理化学状態を推定した。

岩手県と秋田県に広がる火山群である東北日本仙岩地域にて、島弧に沿った方向及び垂直な方向で単一の火山群及び地震波低速度域の波長をカバーする(東西30km-南北30km)空間スケールでの稠密サンプリングを行った。

火山ごとの分化トレンドの解析から、地域中央部には高含水量の結晶分化トレンドを持ち地殻由来メルトとのマグマ混合を伴う火山が分布し、主に地域縁部に比較的低含水量での結晶分化のみを被っている火山が分布することが分かった。

熱力学モデル(Ghiorso et al., 2002)を用いて各火山でマントル内の温度、圧力、含水量を推定した結果、温度は1250-1300度の範囲で、中央部では含水量0.8 wt. %、1GPaでのマントル溶融、その周囲の縁部では含水量0.3-0.5 wt. %、1.4-1.5GPaでの溶融がおきていることが推定された。これらの結果から、マントルウェッジ内の水の分布がメルト分布の不均質の成因として重要であることが示唆される。この物理構造は、地震波速度構造 (Xia et al.,2007など)とも整合的である。

推定結果を基にマントル内部の溶融の3次元構造の成因を議論するためには、エネルギー収支にも着目して、温度や水の量、組成の変化によるマントルの溶融と非溶融の挙動を扱う必要がある。その目的のため、現在、溶融のマスバランスとエネルギーバランスを記述する熱力学計算に向けたモデル化と定式化を行っている。この内容についても報告する。

【後半】

山口 飛鳥 氏 (地球惑星科学専攻・博士課程)

「付加体における地震性断層岩の2類型」

断層面上で地震時のすべり量に大きな不均質があることは、近年の地震学が明らかにした大きな成果の一つである。しかしその不均質性に対応する物質、およびその挙動については未解明な点が多い。地質学的手法により内陸地震の震源域の物質を特定する試みは90年代以降盛んに行われ(田中・板谷, 1998など)、沈み込み帯においても地震時の摩擦溶融によって形成されたと考えられているシュードタキライトがここ数年相次いで発見された(e.g. Ikesawa et al., 2003)が、地震学が描き出したようなkmオーダーを超える不均質性に注目した研究は、付加体ではこれまでなされてこなかった。そこで本研究では、西南日本の四万十付加体・米国アラスカ州の Kodiak付加体を例に、地震時に形成された可能性の高い断層岩を I. 鉱物脈タイプと II. 粉砕タイプの2種類に大別し、両者の形成プロセスの差異を検討中である。今回の発表では現時点で得られた知見について紹介し、物質からみた断層の不均質性の解明を目指す。