2008年7月23日

【前半 16:30〜17:30】

佐藤 友子 氏 (地球惑星科学専攻・博士課程)

「SiO2ガラスの密度と構造の超高圧下その場測定」

密度と圧力の関係は、超高圧物理学における最も基礎的な情報であり、地球や惑星内部のダイナミクスを支配する。結晶については、X線回折を用いることで、密度と構造を同時に決定することができる。しかし、ガラスや液体などの非晶質についての実験手法は未だ確立されていない。例えば、SiO2結晶については、既に300GPa領域までの密度と構造が明らかになっている。一方、SiO2ガラスの密度は、高圧実験の黎明期以来、10GPa程度までの測定に止まったままである。本研究では、非晶質物質の密度と構造の超高圧下その場測定を行うための技術開発を行い [Funamori and Sato, 2008; Sato and Funamori, 2008]、SiO2ガラスについて50GPa領域までの測定に成功した。結果の詳細について報告し、地球科学的観点から議論をしたい。

参考文献:

【後半 17:30〜18:30】

野田 朱美 氏 (地球惑星科学専攻・博士課程)

「GPSデータの逆解析による島弧地殻の3次元弾性 − 非弾性歪み場の推定」

日本列島の地殻構造は,長期に亘る非弾性変形の累積によって形作られてきた。その根本原因がプレート収束運動にあることは疑いない。しかし,プレート収束運動が作り出す弾性変形がどのように非弾性変形に変換され,局所的に累積していくのかは,不明であった。

本研究では,非弾性歪みに関する理論的考察に基づいて,弾性歪みから非弾性歪みへの変換に際して両者の和は一定に保たれるという「総歪み量保存則」を導き,プレート沈み込み帯での地殻変形過程を理解する新たな視点を得た。即ち,プレート収束運動が沈み込み帯周辺域に作り出す応力の殆どはプレート境界での変位の食い違いによって解放されるが,残りの一部は地殻内に蓄積し、やがて限界に達すると脆性破壊や塑性変形によって解放される。これは,地殻内の広域な弾性歪みを非弾性歪みへ変換し,局所的に累積させる過程でもある。つまり,「総歪み量保存則」は,第四紀変動学(ネオテクトニクス)における「変形累積の法則」の定量的表現ということができる。

こうした日本列島地殻の変形過程は現在も進行中であり,今やGPS観測を通じて直接捉えることが出来るようになった。島弧地殻の変形メカニズムを解明するためには,GPS観測データから3次元弾性/非弾性歪み速度場を推定する必要がある。しかし,GPS観測は地表面に沿って2次元的に行われるので,変位ベクトルの鉛直勾配3成分は原理的に求めることができない。そのため,従来の解析法では,水平歪み3成分を求める2次元問題として扱わざるを得なかった。また,弾性/非弾性歪みを適切に分離することも出来なかった。そこで,これらの未解決な重大問題を一挙に解決するため,地殻変形の原因をモーメントテンソルで表現し,物理モデルを介した歪み解析により,GPSデータから3次元弾性/非弾性速度場を推定する新しい方法を開発した。

今回の発表では,新たに開発した歪み解析法の基本的考え方と数学的定式化について説明し,今後の研究予定について述べる。