修士論文中間発表会
講演者:柵山 徹也
タイトル:
『マグマの時間空間変化から読み取るマントルの進化:
北西九州北松浦玄武岩を例として』
(2004年10月06日)
要旨:
これまでの多くの研究の結果、マントルは均質ではなくいくつかの端成分が様々
な時間空間スケールで混合したものであることが明らかになっており(
Hoffman et al., 1986; Hanyu and Kaneoka, 1997; Reiners, 2002; Kogiso
et al., 2004)、その不均質をもたらすプロセスを理解することがマントルの
組成進化を考える上で重要である。上部マントルにおけるそれらのプロセスを
推定するのに部分融解液と考えられる玄武岩がしばしば用いられてきた。西南
日本に特徴的に噴出する未分化なアルカリに富む玄武岩に関しても多くの研究
が行われ、西南日本の新生代以降の火成活動はプリュームが重要な役割を果た
したと考えられている(Nakamura et al., 1985; Iwamori,1991 ; Kakubuchi
et al., 1994; Hoang et al., 2003; Kimura et al., 2003)。本研究では、
広範囲に分布しかつ連続層序の得られる北松浦玄武岩を対象に、マントル不均
質性の有無、あればその程度や時間変化を定量的に検討し、プリューム活動と
マントル組成の時空変化の関連を探る。
北松浦玄武岩は長崎県北部の松浦半島一帯に北西―南東方向に伸張して分布し
ている(約 128km2 、Kurasawa, 1967)。玄武岩の大部分は溶岩流で、所々に
火砕岩を挟む。本研究では東から西へ全体をカバーするように4ヶ所で基盤か
ら最上位までの詳細な層序を確立し、斑晶組み合わせ、鉱物化学組成、全岩化
学組成の比較を行った。東部における斑晶組み合わせはol+cpx+pl±opxが主な
のに対して、西部では斑晶はほぼolのみのことが多い。全岩化学組成にも東西
の違いがあり、同じSiO2量に対して西部に較べて東部はTiO2、Al2O3、FeO、
Na2O、K2O、P2O5に富み、MgO、CaOに乏しく、異なる分化トレンドを示す。東
部はol+cpx+pl、西部はol+cpxの結晶分別で説明できるが、共通の初生マグマ
からの分化では説明することはできない。各地域において最も未分化な岩石の
全岩化学組成を無水条件下におけるかんらん岩溶融実験結果(Takahashi et
al., 1983)と比較すると、東部から西部に向かってマグマ生成深度が浅くな
る傾向にある。また西部は東部に較べてTi/YやNb/Y、Nb/Thが小さくなり、中
央部では両者の中間的な組成を示す。また東西共通して、時代が若くなるにつ
れNb/Thが減少する傾向にある。これらの組成幅は単に地殻を溶融させるだけ
では説明することができない。すなわち、北松浦玄武岩の東西の違いは初生マ
グマの違いを反映していると考えられる。
島弧においては一般にNb,Tiなどのdepletionは海溝から離れるに従い弱まると
いわれている(Nakamura et al., 1985; Nakada & Kamata, 1991)。しかし北松
浦玄武岩ではより背弧側である西部の方がNb,Tiのdepletionが大きくなる傾向
にある。これは本地域の火成活動が時間とともにNb,Tiのdepletionが大きくな
ること(図A)、及び、マグマの生成が西部ほど浅いことを考慮すると、北松
浦玄武岩は西方に中心をもつプリュームによる火成活動により形成されたと考
えられる。およそ10−5Maの期間フィリピン海プレートの沈み込みは休止して
いたと考えられている(Uto, 1989)ことから、10Ma以前に沈み込みの影響を
受け不均質が形成されていたマントル物質を上昇してきたプリュームが徐々に
同化し、現在見られる時空変化が形成されたと考えられる。