修士論文中間発表会
講演者:桑谷 立
タイトル:
『海洋地殻の沈み込みに伴う塩基性岩の脱水変成作用
−熱力学フォーワードモデルを用いた定量化

(2004年11月10日)

要旨:
 沈み込み帯における水の挙動は、火成活動や変成作用、地震の発生などの
さまざまな地学現象に大きな影響を与える。また、近年の高精度の物理探査に
より、流体の移動と関連付けられる非火山性低周波微動(Obara, 2002)や
高流体圧を示す高ポアッソン比領域(Kodaira et al., 2004)などが西南日本
沈み込み帯で観測されている。これらの沈み込み帯深部に存在する流体の
供給源は、海洋地殻中の含水変成鉱物の脱水変成作用であると考えられている。
 過去の研究では、実験的に(Schmidt and Poli, 1998)もしくは熱力学計算に
より(Hacker et al., 2003)海洋地殻中の含水量を見積もっているが、これらの
研究では連続変成反応を扱うことができないので正確な脱水量を得ることは
難しい。そこで、本研究では質量保存則を考慮した微分熱力学フォーワード
モデルを用いて、沈み込むスラブの温度圧力経路から連続的な変成反応史を
復元し、脱水量を計算した。
 Yamasaki and Seno, 2003によって推定された西南日本沈み込み帯の温度
圧力経路に沿って計算を行った結果、緑色片岩相と緑簾石角閃岩相の境界部の
温度圧力条件で脱水量のピークをもつことがわかった。脱水は主に緑泥石の
分解によるものである。この脱水量のピークの深さは低周波微動の震源域や
高ポアッソン比領域、やや深発地震面の深さと一致する。