講演者:池田 進 氏(新領域創成科学研究科)
タイトル:表面科学的手法を用いた界面の研究と地球惑星科学への応用
(2005年02月02日)

要旨:
地球惑星物質において「界面」は至るところにあり、多くの地球惑星科学的
現象に関与している。界面にも様々な種類がありその研究方法も多様であるが、
例えば、結晶粒子同士の固相-固相界面(すなわち粒界)の研究には透過型
電子顕微鏡観察が威力を発揮し、また部分溶融体中の固相-液相界面の挙動を
知るには、熱力学・統計力学的アプローチが有効である。
さて、界面では異種あるいは同種の原子・分子が接し合い、化学結合を形成
するなど、何らかの相互作用を及ぼし合っている。このような相互作用の
担い手は電子であり、電子の 挙動を知ることによって界面現象をミクロな視点
から理解することが可能となる。界面における原子・分子間の相互作用,
すなわち電子の挙動をとらえるための最も直接的な方法は,現時点では薄膜
(蒸着膜)を介した電子分光測定である。そして、電子分光法の中でも
紫外光電子分光法(UPS:Ultraviolet photoelectron spectroscopy)は
この目的において優れた特徴をもっている。 本発表では代表的な金属2成分
共融系であるAl-Sn系に着目し、Al/Sn界面の電子状態に関してUPSにより
観測した結果を紹介する。Sn基板上にAlの薄膜を蒸着すると、AlおよびSnの
バルクスペクトルの足し合わせでは説明できないスペクトルが測定された。
蒸着前後のスペクトルの差をとることにより、このスペクトル変化がAlとSnの
価電子の軌道間相互作用に起因し、Al/Sn界面において電子エネルギー的に
不利な状態が出現していることがわかった。このような電子レベルでの
実験結果は、AlとSnが固溶体を形成せず2相分離することや、部分溶融状態に
おいて固液界面エネルギーが液組成依存性を示すことと調和的であり、
マクロスコピックな諸現象を理解するのに役立つものと期待される。
また本発表では、種々の表面科学的実験手法を簡単に紹介し、地球惑星科学への
応用について考えてみたい。