武井康子 氏(地震研究所)

2005.06.22

タイトル: 部分溶融岩石のメルト形状とその地震学的観測可能性について

要旨
最近の地震学の進歩により、地下の3次元速度構造(Vp、Vs)や減衰構造が
高解像度で得られるようになった。これらを用いて地殻深部や上部マントル
の流体相分布を求めることを目指している。

VpとVs両方の構造を知ることにより、流体の存在量とそのポア形状について
の情報を得ることができる。これらの情報からさらに場の応力や変形状態など
の情報を引き出すためには、ポア形状のふるまいを解明することが重要となる。
地殻深部や上部マントルのような高温の系では、静水圧下における流体ポアの
形状は、鉱物と流体相の間のぬれ特性によって決まる平衡形状になることが
分かっているが、差応力や変形が及ぼす影響はほとんど分かっていない。
そこで、部分溶融岩石のアナログ物質を用いた変形実験を行い、差応力が
ポア形状に与える影響を調べている。これまでの実験でとらえた、差応力下
で粒界のぬれが良くなる現象(dynamic wetting)について報告する。

Vp, Vs構造から流体相の情報を得るにあたっては、温度の不均質が速度構造
に与えている影響を取り除く必要がある。温度の影響については、これまで
超音波帯域における実測データと線形非弾性理論を組み合わせることにより
推定されてきた。最近Jackson et al (2002)は、地震波帯域での実測データ
を初めて得たが、それはこれまでの理論予想を超える大きな温度依存性を
示している。この結果について、これまでの理論との関係を議論する。