博士論文中間発表会
河合研志 氏
2005.06.29
タイトル: 「異方性を含んだ局所的な3次元地震学的地球内部構造の
推定手法の開発および波形インバージョンによる中米下D"層の
S波異方性構造推定」
要旨
異方性構造は変形や流動に関連しているため、地球内部ダイナミクスを
理解するのに欠かせない情報である。これまでの異方性構造推定研究の
一つの大きなテーマは、D"層(マントルの最深部)の異方性構造推定を
目的としたものである。従来のD"層の異方性構造推定の代表的研究例は、
S波の偏光異方性によって生じる走時差(水平方向に振動するS波<SH波>と
鉛直方向に振動するS波<SV波>の到達時刻の差)を用いた研究(e.g. Kendall
& Silver 1996)や理論波形を用いたフォワードモデリング(構造を
変え理論波形を計算し観測波形と調和するモデルを導く手法)を用いた研究
(e.g. Pulliam & Sen 1998)がある。前者は、群速度が位相速度の入射角に
依存するなど、異方性構造での走時計算は複雑である上に、測定される
走時差が波線上積分であるために定量的な見積もりが困難である。
後者は、試行錯誤的にモデル推定が行われたために客観的な推定が
困難であった。また、用いられる理論波形計算手法が、円筒座標で
計算した後、球の効果を取り入れるなどの近似を用いられているため
正確な推定が困難であった。そこで上記の困難を克服するために、
弾性体の運動方程式を上述した近似を用いずに厳密に扱う理論波形計算手法
及び広帯域地震波形データを用いて波形インバージョン(地震波形
データそのものをデータとし、観測波形と理論波形の残差を減らす方向に
逐次的に地球内部構造を推定する方法)を行い、高精度かつ高解像度の
3次元地震波速度異方性構造モデルの推定を目指している。
この研究は大きく3つの部分に分けられ、(1)球対称TI媒質
(鉛直軸対称な異方性; 独立な弾性定数は5個)に対する理論波形計算手法の
定式化およびソフトの開発、(2)局所的な異方性構造の摂動に対する
偏微分係数波形計算手法の定式化及びソフトの開発、(3)観測波形を用いた
波形インバージョン、からなる。
今回は、(1)、(2)および(3)の予備的な結果を発表する予定である。