博士論文中間発表会

荻津達 氏

2005.07.20

タイトル: 「島弧ソレアイトマグマの発生・分化の支配要因」

要旨
島弧の火成活動がプレートの沈み込みに関連していることはその火山の分布
を見ても明白である.それぞれの島弧では沈み込むスラブのテクトニックな特徴
(沈み込むプレートの相対速度,年齢,角度,方向,等)や沈み込まれる側
の地殻の種類や厚さ,ウェッジマントルの温度分布,組成などが異なっており,
これら全てが島弧下マントルにおけるマグマ発生や分化の条件を様々に支配
していると考えられる.一つの島弧内のある範囲でこれらのパラメータに変化が
ない場合,その島弧内又は島弧の一部で共通の性質を持つ火山が多く存在
するという傾向があれば,島弧を特徴づける要素によって火山岩の性質が
決まってくる可能性が高いと考えられる.よって,産する火山岩が他の島弧には
認められないある非常に特徴的な性質を示す島弧において,その成因を明らか
にすることは,支配する条件を解明する事につながり,島弧の火成活動を理解
する上で非常に重要である. 伊豆弧の火山フロントの火山では特徴的に低アル
カリソレアイトの玄武岩を産している.それらは以下のような特徴を持っている.
1. 島弧としては高いFeOtを持つ無斑晶玄武岩が存在する.2.それらを石基組成
とし,斜長石斑晶量の多い火山岩が存在する.3.アノーサイト(An)値の高い
斜長石を多くに含む.特にこれら傾向は他の島弧に比べ顕著である.伊豆弧の
未分化なマグマは特にFeOtには富んでおらず,斜長石斑晶量もそれほど多くは
ないので,これらの性質は,斜長石の結晶分別が関係するマグマの分化過程で
作られたものであると考えられる。青ヶ島火山に見られる玄武岩は最大40vol%の
斜長石斑晶を含む.斜長石斑晶は主に70-96のAn値を持ち複雑な累帯構造を
示している.しかし一つの岩石中に見られる斜長石斑晶はその斑晶のAn値を
横軸に微量元素として含まれるMgOを縦軸にとった図上で比較的締まった負の
相関を示す直線に乗る.さらにこの関係は,全岩化学組成のFeOt/MgOが
低いものほど斜長石斑晶中のMgOが多い傾向を示し全岩化学組成との相関関係が
見られる.以上より青ヶ島火山に見られる火山岩中の斜長石斑晶がFeOtに
富む分化トレンドが斑晶として含まれる斜長石の分別によってFeOtの多い組成が
作られた.また,斜長石の晶出はマグマ中の含水量に支配され,とくに上の様な
分化をするためには伊豆弧の初生マグマの含水量が少ないことが要請される.
さらに,伊豆弧の初生マグマの特徴を支配している沈み込みの要素との関係を
議論する予定である.