博士論文中間発表会

北村 有迅 氏

2005.07.27

タイトル: 「プレート境界岩の化石 - テクトニックメランジュから
      みる沈み込みプレート境界の物質科学 -」

要旨
テクトニックメランジュは沈み込み帯のプレート境界プロセスを理解する上で重
要であるが未解明の点が多く残されている。温度圧力条件や地質学的セッティン
グ(Matsumura et al., 2003など)から、メランジュは地震発生帯に到達したと推
定される。付加体のメランジュは様々な手法によって定量的に記載されようとし
ている。高知県の興津において構造性メランジュの上部境界からシュードタキラ
イトが発見され(Ikesawa et al., 2003)、また輝炭反射率から求めた最高被熱温
度が地震発生領域付近の履歴を示唆することなどから、四万十帯の構造性メラン
ジュは地震の発生と底付け付加作用に関する重大な情報をもっていると考えられ
る。本研究では四国東部の牟岐メランジュにおいて構造解析、輝炭反射率、帯磁
率異方性のデータからプレート境界岩としての解釈を試みた。牟岐メランジュは
四万十帯北帯南部に位置する。牟岐メランジュは玄武岩スラブの繰り返しを基準
に下位からUnit 1-5と五つのユニットに分けられている(Ikesawa et al., 2003)。
(I)輝炭反射率のデータ(Ikesawa et al., 2005; Kitamura et al., in press)よ
りUnit 1-3 (150-190℃)とUnit 4, 5 (240-260℃)の間に温度ギャップが見られ、Unit
5は上位の日和佐層と断層で境されている。またUnit 1-3とUnit 4, 5は放散虫年
代によれば白亜紀と第三紀のギャップでもある(Ikehara-Ohmori, 2003)。このこ
とからUnit 1-3をLower section、Unit 4,5をUpper sectionとした。本研究では
特にUpper sectionに焦点を当てた。Upper sectionと日和佐層との境界は約1m
の剪断帯を伴う断層で接しており、その断層岩からシュードタキライトが見つか
った。帯磁率異方性の測定では帯磁率楕円体が非常に扁平であることを示した。
これらのことから牟岐のメランジュは250℃程度まで沈み込み、天井断層はmaster
decollement もしくは低角なSpray fault (Park et al., 2001)となって地震性
すべりを伴っていたと考えられる。温度条件からメランジュ形成は地震発生領域
に達しても進行していたとみられる。メランジュの変形は圧力溶解を主とするの
で、非地震時の低速変形の可能性を考えなくてはならない。 (II)従ってプレート
境界の運動を理解するには主剪断面であるデコルマの他にメランジュの担う変形
も吟味しなければならない。メランジュ中には歪マーカーが乏しいのでその変形
量を知ることは難しい。帯磁率異方性を用いた研究では、極めて扁平な帯磁率楕
円が得られている (Ujiie et al., 2000; 本研究)。変形量が大きく定量が難し
いが、泥質の基質より比較的固い砂質部は変形の履歴を留めやすい。これに注目
して、地震発生帯におけるメランジュ形成の意義を明らかにするためにブーディ
ン構造を主とする砂岩の変形を調査した。