<要旨>
発表者1: 内出 崇彦 氏
タイトル:マルチスケール震源モデルを用いた2004年新潟県中越地震の解析
-- 解析手法の開発と予備解析 --
要旨: 観測される地震波には、振幅の大きい主要P波が到達する前に初期
フェーズと呼ばれる小さいP波が見られる。これは初期破壊過程を反映する
ものとして注目されており、地震の最終的なスケールに着目した通常の断層
すべりの地震波形インバージョンでは見過ごされてしまうものである。
本研究では、初期破壊過程から破壊の停止までを対象としたマルチスケー
ル震源モデル(Aochi and Ide, 2004)を用いた新しい地震波形インバージョ
ン法を開発した。そして、この新しい手法を用いて2004年新潟県中越地震を
解析することを目指している。今回の中間発表では、新手法の概要を紹介す
るほか、2004年新潟県中越地震の初期破壊過程(破壊開始後3秒以内)につ
いての予備解析の結果を示す予定である。
発表者2: 浦田 紀子 氏
タイトル:摩擦発熱とthermal pressurizationのモデルの地震断層への適用
―野島断層・車籠埔断層を例にして―
要旨: 地震すべりの間に断層面で発生する摩擦発熱によって断層面の温度
と動的剪断強度が変化することは古くから知られている(McKenzie and
Brune, 1972)。さらにMase and Smith (1987)は摩擦発熱によって引き起こ
される間隙弾性体中の流体の熱膨張の影響を新たに加え定式化している。摩
擦発熱とthermal pressurizationのモデルを用いた温度・圧力変化の計算に
は多くのパラメータが必要であるため、リアルパラメータを用いた研究例は
少ない。
本研究では野島断層と車籠埔断層についてMase and Smith (1987)のモデ
ルを適用し、リアルパラメータを用いて、モデルから期待される地震発生時
の断層面近傍の温度異常と地震時の震源断層の剪断強度の大きさとその変化
を推定し、物質科学的な解析結果との対比を行う。
<行うモデル化>
(i) 野島平林NIEDコア1142mの剪断面ついて
(ii) 断層コア解析から得られた3つの活動ステージ(断層運動が起き
た深度と断層岩分布によって分類)に対応する剪断面について
(iii) 車籠埔断層BH1A 300 mの剪断面について
(i)の結果から、断層中心における温度上昇はわずかであることがわかっ
た。また間隙圧は岩圧近くまで上昇した。不明であったいくつかのパラメー
タについてパラメータスタディを行ったところ、いずれのパラメータも鈍感
であった。
本発表では、野島断層の活動による断層面の温度・圧力変化の計算結果の
詳細を報告し、今後の予定について述べる。
発表者3: 佐藤 友子 氏
タイトル:超高圧下における二酸化物のpost-PbCl2相転移の探索
要旨:
結晶化学的な観点から、二酸化物の高圧下での相転移系列について多くの研
究がなされている。その中で特に興味深いのは、大きな陽イオンをもつ二酸
化物が、常圧下ではrutile構造(6配位)やfluorite構造(8配位)などの多
様な構造をとるにも関わらず、高圧下では知られている限り全て、配位数9
のPbCl2構造をとるようになることである。更なる高圧下では二酸化物は配
位数10以上のいわゆるpost-PbCl2構造をとると予測されるが、まだその報告
はなされていない。また炭素やケイ素と同族元素である鉛の二酸化物もPbCl2
構造をとることが知られているので、地球惑星科学的に重要なCO2やSiO2も、
究極的な超高圧力下では、PbCl2構造やpost-PbCl2構造をとる可能性がある。
機器的な制約から比較的容易に実現できる圧力は限られているので、
post-PbCl2相転移を探索するためには相転移圧が比較的低いと予測される二
酸化物を試料として選択することが重要である。一般的に陽イオン半径が大
きいものはより低い圧力で相転移するという傾向がある。そこで、現在まで
にPbCl2構造への相転移が報告されている二酸化物の陽イオン半径よりも、
Te4+のイオン半径がさらに大きいことに着目し、その圧力誘起相転移を調べ
post-PbCl2相転移の可能性を探った(Sato et al., 2005)。中長期的な研究
計画と、その中での今回の実験の位置付けについても述べる予定である。
Reference: T. Sato et al., Post-PbCl2 phase
transformation of TeO2,
Phys.Rev. B 72, 092101, 2005