日時:10月12日(水)午後3:30〜
講演者:小田晋 氏、小田島康浩 氏、野田朱美 氏
場所:理学部1号館710号室
タイトル:修論中間発表

<要旨>
発表者1: 小田 晋 氏
タイトル:伊那谷断層帯の構造と発達
要旨: 太平洋プレートとフィリピン海プレートがユーラシアプレートに及ぼ
す力によって、東西圧縮が卓越している日本列島には逆断層が数多く分布する。
これまで困難とされてきた地下構造のイメージングを必要とする逆断層の構造
や発達過程に関する研究は、近年の物理探査技術やボーリング技術の発達によ
り飛躍的な進歩を遂げている。
 長野県南部に分布する伊那谷断層帯は、一瀬(1926)以来多くの研究によりそ
の分布が確かめられており、大別して東西2列の平行する断層であると理解さ
れてきた。また池田(1988)は、重力探査の結果から伊那谷断層帯を西に低角に
傾斜する逆断層であるとした。そしてその後行われた反射法地震探査等もその
構造を支持した結果を示した。しかしながら2列の平行する断層の地下におけ
る関係や断層の総すべり量、詳細な傾斜角など、断層の発達過程を知る上での
必要な情報については、未だ不明な点も多い。
 本研究は、この伊那谷断層について改めて反射法地震探査や重力探査を行う
ことによってその地下構造を推定し、その結果から断層の発達過程や断層運動
が地形に与える影響について考察するものである。
 今回の発表では反射法地震探査と重力探査の解析の結果について報告し、今
後の予定について述べる。


発表者2: 小田島 庸浩 氏
タイトル:上部マントル変形指標としてのCr-Alスピネル
要旨: 地表で見られるテクトニクスや火山活動の源であるマントルの挙動の
うちでも重要なかんらん岩の流動条件やメカニズムについて、少量ではあるが
普遍的に出現するCr-Al スピネルの形態、粒子内部構造、化学組成分布から制
約することが本研究の目的である。
 かんらん岩に含まれるスピネルは組成や形態が多様であり、かんらん岩の融
解過程を探る重要な指標となることが知られている(Irvine, 1965, 1967;
Dick and Bullen, 1984; Arai, 1992, 1994)。一方で、スピネルの伸張方向や
配列はかんらん岩の変形を反映していると考えられており、流動方向や剪断セ
ンスを決定するのに用いられてきた(Nicolas and Poirier, 1976)。例えば、
スピネルの配列で定義される線構造とかんらん石のLPOの斜交関係から剪断セ
ンスを決めることができるとされている。しかし、スピネルの線構造や形態が
どのようにしてできたかについては、わからない事が多い。本研究ではかんら
ん岩中のスピネルに注目し、スピネルの結晶方位とCr-Al累帯構造をかんらん
岩の変形指標として用いることで、マントル流動の理解を深める事ができると
考えている。
 本研究では、幌満かんらん岩を研究対象としている。幌満岩体では、Upper
ZoneとLower Zoneのハルツバージャイト中のスピネルの形態、粒子内部構造
(結晶方位)、化学組成分布(Cr-Al累帯構造)に注目して比較した。スピネル
のroundnessをMastumoto and Arai (2001)と同様の手法で定量化して比較した
ところ、Lower Zoneのスピネルの方がより不規則であることが分かった。ま
た、Upper Zoneのスピネルには殆どinclusionが見られないが、Lower Zoneで
はみかけ上のinclusionを含むスピネルが多く見られる。スピネルの内部構造
はSEM-EBSDで解析した。Upper Zoneのスピネルは、希な亜粒界以外を除き、そ
の方位は均質であるのに対し、Lower Zoneのスピネルでは亜粒界が普通に観察
された。化学組成分布をEPMAを用い。特に結晶方位が変化している部分に注目
して解析したところ、Upper Zoneのスピネルは粒子の内側から粒界に向かって
Crが減少しAlが増加する同心円状の累帯構造を示すのに対し、Lower Zone の
スピネルでは粒界に最大・最小値の両方を持つCr-Alの不均質が見られた。ま
た粒界における結晶格子の方位差が20°を超えると、Cr-Al不均質が出現する
ことが分かった。
 Upper Zone のスピネルはわずかに亜粒界を含むだけであるのに対し、Lower
Zoneのスピネルにはdislocation creepによってできた亜粒界と、diffusion
creepによってできたCr-Al累帯構造が共存している。亜粒界はdislocation
creepにより変形する過程で形成され、粒界にCr-Alの最大値が隣り合う構造は
diffusion creep過程においてCr-Alの拡散係数の違いによって形成される
(Ozawa, 1989)。一方、同心円状の累帯構造は温度変化に伴う反応過程で形成
されたものであり、変形を反映した構造ではない。
 鉱物が変形する場合、粒径が小さくなるほどdiffusion creepが効率よく機
能することが知られている。しかし、変形時の温度が高い場合は粒径が小さい
場合でもdislocation creepが優勢な変形メカニズムとなり得る。幌満岩体の
Upper Zoneとlower Zoneは異なる温度履歴をたどったことが分かっており
(Ozawa, 2004)、スピネルの粒径変化に伴う変形メカニズムの変化と対応付け
ることが出来る。


発表者3: 野田 朱美 氏
タイトル:関東地域のテクトニクスと大地震の発生:
     大正関東地震時のすべり分布と地震間のすべり遅れ分布
要旨: 関東地域においては、太平洋プレートが北アメリカプレートとフィリ
ピン海プレートの下に沈み込んでいるのに加えて、フィリピン海プレートが北
アメリカプレートの下に沈み込み、その東端は太平洋プレートの上に乗り上げ、
北端は伊豆半島の付け根で衝突している。このような複雑なテクトニック環境
を反映して、関東地域では地震に伴う急激な地殻変動から海成段丘面の隆起の
ような経年的な変動まで複雑に重なり合って観測される。本研究では、これら
の地殻変動現象を引き起こす原因がプレート境界面での力学的相互作用にある
という考えに基づいて解析を行い、様々な時間スケールの地殻変動現象を統一
的に理解することを目指している。その最初のステップとして,まず大地震の
発生サイクルに伴う地殻変動現象に着目し、地震時と地震間の地殻変動につい
てインバージョン解析を行った。
 インバージョンには、Yabuki and Matsu’ura (1992)の手法を改良したもの
を用いた。まず、プレート境界面上のすべり分布あるいはすべり遅れ分布を
Bicubic B-spline関数の重ね合わせで表した。この時の重ね合わせの係数がモ
デルパラメタ−となる。ベイズ規則に基づいて観測データからの情報とすべり
(遅れ)分布が滑らかであるという先験的情報を結合して超パラメターを含む
ベイズ型モデルを構築した。最適モデルを選択する規準としてはAkaike’s
Bayesian Information Criterion (ABIC)を用いた。
 上記の手法を用いて1923年の大正関東地震前後の水準及び三角測量データか
ら地震時のすべり分布を推定した。また、GPSデータを用いて地震間のすべり
遅れ分布を推定した。これらの結果を比較して、地震時のすべり分布と地震間
のすべり遅れ分布の関係を明らかにする。