日時:10月26日(水)午後3:30〜
場所:理学部1号館710号室
発表者:上木賢太 氏、岡本伸也 氏、山口飛鳥 氏


発表者1:上木 賢太 氏
タイトル:「火山岩から推定するマントル情報
        :東北日本仙岩地域の火山岩の分化プロセス
                    及び初生メルト組成」

要旨:全地球規模の物質循環や地球内部のダイナミックプロセスを
考えるときに、沈み込み帯の物理・化学的な状態を決定することは
非常に重要である。近年、島弧走向方向に不連続な火山の分布
(Kondo et al., 1998)や地震波の低速度域(Hasegawa et al.,
2004)、数値計算(Honda and Sato, 2003)などから、マントルウェ
ッジに島弧走向方向に不連続な〜50kmスケールの3次元的な構造が
存在することが指摘された(Tamuraet al. 2002、Honda and
Yoshida 2005)。この不連続構造の本質はまだ明確ではないが、マ
ントル内部のこのような構造を反映して火山岩には初生メルト生成
時の温度の違いや流体の量の違いなどが見られるはずである。沈み
込み帯火成活動の噴出物の組成や年代などの空間変化を中〜広域的
な空間スケールで検討し、マントルウェッジ内のメルト生成領域の
3次元的構造を描像することが本研究の目的である。
 東北日本弧火山フロント、北緯40度東経141度周辺の仙 岩地域火
山群を対象地域とした。地域内の複数の火山からサンプリングを行
い、全岩化学組成や鉱物組成などの分析を行った。分析から得られ
たデータ及び、過去に報告された全岩組成や年代値から、東西40km
南北25kmの空間スケールで火山岩の空間変化をまず以下の点に着目
して比較した。
1 MgO含有量(5.5 wt.%)で規格化(Planc and Langmuir, 1987)した
  全岩化学組成
2 斑晶鉱物組合せと斑晶組成
3 活動年代
 その結果、仙岩地域では火山群中心部にSiO2(〜56wt.%)やアルカ
リに富む(〜3wt.%)火山(秋田焼山・八幡平火山など)が分布し、そ
れらの火山を取り囲んで火山群縁部にSiO2(〜52wt.%)や総アルカリ
に乏しく(〜2.5wt.%)Al2O3・CaOに富む火山(秋田駒ヶ岳・岩手火山
・茶臼岳など)が分布している。液相濃集元素のZrとYの比も地域の
中心部と縁部で異なっている。縁部は活動年代が若く(0〜0.5Ma)中
心部は古い(0.5〜2Ma)。このように、仙岩地域では数10km空間スケ
ールで火山群の中心部と縁部で組成や活動年代などの違いが見られ
る。
 火山岩の組成変化トレンドは火山岩がたどった履歴を反映してい
て、火山岩がたどってきた過程を推定する手がかりを得ることが出
来る。最小二乗法のマスバランス計算やMELTS(Ghiorso and Sack,
1995)を用いて個々の火山のトレンドの検討を行った。その結果、
仙岩地域内では、一連の活動であるが異なるH2O量・圧力での分化
を記録している火山(秋田駒ヶ岳・笊森山)、斜長石斑晶の濃集が起
きていると考えられる火山(荷葉岳)、そして、低 fO2での結晶分化
またはSiO2に富んだ異なるマグマ(例えば玉川溶結凝灰岩)との混合
で説明し得るトレンドを持つ火山(八幡平火山)が存在していること
が分かった。地域南部の秋田駒ヶ岳・笊森山・荷葉岳は、ほぼ同様
の性質の初生マグマからの異なる条件での分化プロセスで噴出物の
組成幅が説明可能である。しかし、地域中心部の八幡平火山では周
辺部の火山とは異なる初生マグマが存在していることが推定され
る。
 分化トレンドの検討から、かんらん石+cpxが主要な分別相であ
るトレンドが多くの火山で存在していることが分かった。よって、
かんらん石の分化を補正すれば初生的なメルトの組成を誤差少なく
求めることが出来る可能性がある。ここではTatsumi et al (1983)
のかんらん石分化モデルを用いて初生的なメルト組成を推定した。
かんらん石の分化を補正してもMgO 5.5で見られた組成の違いは保
存された。pMELTS(Ghiorso and Hirschmann, 1998)を使用したかん
らん岩融解モデル及びかんらん岩融解実験(Hirose andKawamoto,
1995)と比較した結果、仙岩地域では、マントル内部で中心部では
高含水量、縁部では低含水量の溶融条件で生じたメルトが分布する
ことが示唆された。


発表者2:岡本 伸也 氏
タイトル:付加体out-of-sequence thrustで見られる断層岩

近年,南海トラフ紀伊半島沖での地震波反射法探査より東南海地震
(1944年) の破壊領域にプレート境界デコルマから派生している
splay faultが特徴的に存在することが明らかになった(Park et
al.,2002).これはsplay faultに沿って海溝型巨大地震が発生する
ことを示唆している.本研究ではsplay faultの成長と巨大地震発
生との関係を明らかにすることを目的として,splay faultの陸上
でのよいアナログとして考えられる延岡衝上断層(Kondo et al.,
2005)の剪断帯の調査を行っている.延岡衝上断層は古地温構造を
切ること,年代境界と斜交することから陸上付加体におけるout-
of-sequence thrustであると認定されている(木村,1997).延岡衝
上断層は断層コアを境に70℃の温度差があり,上盤約320℃,下盤
約250℃の最高被熱温度を示す(Kondo et al.,2005).本研究ではと
りわけ地震発生領域(150℃?350℃)の深部?浅部までの広範な断層
運動の情報を記録していると推測される断層上盤に注目して地質調
査を行った.断層上盤は砂岩泥岩互層起源の千枚岩からなり,面構
造は石英の塑性変形を伴った剪断によって特徴付けられている.剪
断歪解析を行ったところ,延岡衝上断層の断層コアから離れるにつ
れて剪断歪が減少し,面構造に沿った変位量は少なくとも57mにな
ることが明らかになった.また,延岡衝上断層から約100mの範囲で
は面構造に斜交し,延岡衝上断層と平行な破断面が数十条見られ
る.それらの剪断方向は延岡衝上断層の断層コアと調和的である.
こうした特徴を持つ破断面について露頭スケールから薄片スケール
までの詳細な構造の観察および解析を行った.その結果,それらの
微細構造から摩擦溶融した組織(シュードタキライト)を発見した.
また,シュードタキライトのマントル(外皮)では断層の剪断に先行
する非対称クラック,およびimplosion brecciaが確認できた.こ
れらは,先行するダメージ帯の形成が,間隙水の高圧化を原因とす
るhydro-fracturingによる可能性がある.


発表者3:山口 飛鳥 氏
タイトル:付加体中の鉱物脈から見た地震発生帯上限域の流体挙動

要旨: 沈み込み帯の地震は高流体圧下で発生することが予想され
るが,流体圧の変化幅や,流体の組成・起源に関する直接的な情報
はほとんど得られていない.陸上付加体の鉱物脈の中には断層運動
と密接に関連して形成されたものがあり,そこからこれらの情報の
抽出を試みた.
 調査地域は徳島県の白亜系〜古第三系四万十帯牟岐メランジュ
(混在岩体)で,地震発生帯上限付近の深度(最高被熱温度 130〜200
℃)で形成されたと考えられている底付け付加体である(Ikesawa et
al., 2005).本研究では牟岐メランジュ中に見られる鉱物脈を産状
から4種類に大別し,方解石の炭素・酸素同位体比測定から脈形成
流体の起源の推定を行った.その結果,牟岐メランジュ中の鉱物脈
の大部分は,有機物の熱分解を起源とする-10〜20‰の炭 素同位体
比・含水鉱物からの脱水を起源とする+5〜9‰の酸素同位 体比を持
つ流体から形成されたことがわかった.また断層周辺の鉱物脈につ
いて流体包有物の加熱冷却実験を行い,形成温度圧力を推定した.
その結果,断層運動と同時的に形成されたと考えられる鉱物脈で流
体が沸騰した痕跡が見つかった.発表ではこれらの鉱物脈の形成プ
ロセスと,断層運動に関連した流体の挙動を考察し,今後の展望に
ついて述べる.