深畑幸俊 氏 (地球惑星科学専攻)
「弾性―粘弾性多層構造媒質中の断層運動による内部変形場:安定解とその導出の歴史」
2006年6月14日
地震(断層運動)が起こったときに地球表面および内部においてどのような
変形が生じるかという問題は、地震学や地殻変動の中心的命題であるのみなら
ず、変動地形学やテクトニクスなどにとってもその理論的基礎を与える極めて
重要な課題である。
地震後の余効変動や地震サイクル、更には海成段丘の隆起といった問題を扱
う際には、アセノスフェアの粘弾性的性質を考慮することが必須であり、その
最も簡単な表現が、弾性―粘弾性平行成層構造モデルである。その成層構造媒
質中での断層運動による静的変形場の導出において、我々のグループはSato
(1971) 以来長年に亘り、Rundle らのグループと共に世界の研究をリードしてきた。
近年、地球内部の変形場に対する需要が高まったことを背景に、地表面での
表現を拡張することにより、内部変形場の導出を行いそれに成功した。そこで
のポイントは、数値不安定を回避するために、地表面を含む震源よりも浅い領
域ではこれまで通り下方伝達行列を使用する一方、震源よりも深い領域では新
たに上方伝達行列を用いたことである。
この研究を論文としてまとめるにあたり過去の文献を読み直したところ、驚
くべきことに、Rundle を初めとする世界の他の研究者達はおしなべて地表変
形場の導出に上方伝達行列を使用し、その結果生じてしまう数値不安定を抑え
るために多大なる努力を払ってきたことが分かった。要するに、Rundle らの
グループと佐藤、松浦らのグループの表式はいわば双子の裏表の関係にあり、
しかしながら、30年もの間、お互いにそのことに気付いていなかったのである。
この事実は、科学史的観点からも興味深い。
本講演では、線形粘弾性体の等価定理についても併せて説明する。等価定理
により、一般の弾性―線形粘弾性混合物体の時間無限大の解が、対応する弾性
問題の解から直ちに得られる。例えば、Maxwell 粘弾性体の場合、時間無限大
の解は対応する弾性問題の剛性率ゼロの極限と一致する。等価定理は実用上極
めて便利で、それにより地震変動の粘性緩和完了後の最終状態や、プレート境
界など定常的断層運動によって生じる平均変形速度場などが、面倒な粘弾性計
算を経ずに得ることが可能となった。
<参考文献>
Fukahata, Y. & Matsu'ura, M., 2005. General expressions for internal
deformation fields due to a dislocation source in a multilayered
elastic half-space, Geophys. J. Int., 161, 507-521.
Fukahata, Y. & Matsu'ura, M., 2006. Quasi-static internal deformation
due to a dislocation source in a multilayered elastic/viscoelastic
half-space and an equivalence theorem, Geophys. J. Int.,
doi: 10.1111/j.1365-246X.2006.02921.x.