博士論文中間発表 鈴木彩子 氏
「上部マントルかんらん岩の変形史解読の新たなアプローチ:
クロマイトスピネル中のCrとAlの拡散係数の実測とその応用」
2006年7月12日
地球内部のマントル対流,特に上部マントルにおける変形流動について,天然
の岩石試料から解読するために,従来,主要構成鉱物であるオリビンの塑性変
形解析が主に行われてきた.しかし,それで明らかになるのは,幅広い変形レ
ジームの中の一部に過ぎず,例えば低歪速度条件における変形条件解析などは
できない.本研究では,少量ではあるが普遍的にマントル物質に含まれるクロ
マイトスピネル-スピネル系を新たな変形流動の指標として、高温高圧実験に
よって確立することをめざしている.
上部マントルかんらん岩中に含まれるスピネル ((Mg,Fe)(Al,Cr)2O4) には,
3価の陽イオン(Cr-Al)のmulti-polar zoningが認められるものがある.その形
成要因として拡散クリープによる変形履歴の反映が指摘されている (Ozawa,
1989).その際,2種類の拡散経路,すなわち粒内拡散および粒界拡散が複合す
ると考えられる.双方の効果を含めて解析するためには,Cr,Alの粒内拡散係
数および粒界拡散係数を実験で求める必要がある.
拡散実験は、地震研究所のマルチアンビル型超高圧発生装置を用いて行った.
出発物質としては,(1)粒内拡散実験では,端成分スピネルとクロマイトスピ
ネルを,(2)粒界拡散実験では,さらにフォルステライトを加えた3種類の鉱物
を用いた.求めた拡散係数および活性化エネルギー値を用いて,上部マントル
におけるmulti-polar zoningの形成条件の解読を試みる.