修士論文中間発表 冨士延章氏

「波形インバージョンによる局所的内部構造推定手法:
北西太平洋下のマントル遷移層への予備的応用」

2006年9月27日

 マントル遷移層はマントル対流・スラブの沈み込みなどを反映して地域により不均
質な構造をもっている。従来のマントル遷移層の構造推定手法としては、大量の走時
データを用いて定量的・客観的なインバージョンを行う走時トモグラフィー(e.g., Fukao
et al., 1992)や、波形そのものをデータとして理論波形と観測波形を定性的・試行錯
誤的に合わせる(ただし、そのぶんデータの量が少ない)波形モデリング(e.g., Tajima
& Grand, 1998)などがある。本研究では、大量の波形をデータセットとして定量的
・客観的な構造推定を行える波形インバージョンを目指している。遷移層をターゲット
とした波形インバージョンを実体波を用いて行う研究は初めての試みであり、将来的に
は3次元構造の推定を目的としているが、修士論文においては局所的1次元S波速度
構造に限って推定を行う。
 本研究では、以下の2点を当面の課題と位置付け、これまで進めてきた。
 まず、波形インバージョンを遂行するにあたって、大量のデータを取得・処理する
必要があり、そのインバージョンの過程もシステマティックに行うことが望ましい。
そのために、データ処理・インバージョンにおける過程を自動化・効率化するプログ
ラム群を作成している。試験的なインバージョン(下に述べる補正をなくして)も行った。
 つぎに、観測データの持つ震源・観測点付近の不均質や震源時間関数の影響を除去
するための、震源・観測点補正法の模索を行った。震源・観測点付近における局所的
な不均質を見積もるために、サブアレイ補正を行い、さらに、その拡張としてあらた
に観測点補正法を考案している。
 これまでの研究は、データ処理ソフトウェアの開発・観測点補正法の模索が主であっ
たが、修士論文までに、準備的な局所的波形インバージョンを行い、1次元S波速度構
造を推定することを予定している。