修士論文中間発表 岡本伸也氏
「付加体Out-of-Sequence thrustにおける地震性滑りメカニズムの解明
〜四万十帯延岡衝上断層からのアプローチ〜」
2006年10月11日
近年、沈み込み帯の地震発生深度より上昇した付加体から摩擦熔融の地質学的証拠で
あるシュードタキライトが発見されてきた(Ikesawa et al., 2003; Kitamura et al.
, 2005; Rowe et al.,2005; Mukoyoshi et al., 2006).しかしながら、鉱物構造水
および間隙水を多く含む付加体では摩擦熔融が妨げられ、thermal pressurization(
Mase and Smith, 1987), acoustic fluidization(Melosh,1996), elastohydordynami
c lubrication(Brodsky and Kanamori,2001)など、流体が関係するメカニズムが地震
の不安定すべり時の動的弱化に貢献すると考えられる.本研究では、(1)ダイナミッ
クな断層運動時の流体の役割、(2)流体が関係した動的弱化メカニズムの地質学的証
拠としての保存性、(3)摩擦熔融と流体との関係、以上3点を解明することを目的と
する.
調査地域は九州四万十帯を二分する延岡衝上断層であり、地震発生帯深度より上昇
した付加体out-of-sequence thrustであると考えられている(Kondo et al.,2005).
本研究において、延岡衝上断層からシュードタキライトを発見した.微細構造観察よ
りシュードタキライトは二次的な変形は受けておらず、1回の断層運動によって形成
されたと言える.本断層に沿って観察されるfault jogおよび下盤側に発達したtensi
on crackには基質を炭酸塩鉱物が充点したbrecciaが見られ、産状より断層すべり時
のdilationに起因したimplosion brecciaであると考えられる.すべり部分の切断関
係はシュードタキライトがimplosion brecciaを切ることを示す.しかし、fault jog
部はimplosion brecciaのみからなりシュードタキライトは見られない.以上より、
本断層は1回の断層すべりで形成され、implosion brecciaとシュードタキライトは
同時的に形成されたことを示している.
また、本断層およびその近傍では2種類の沈殿鉱物脈が存在する.@石英脈:シュー
ドタキライトとtension crackを充点するimplosion brecciaに切られるが、母岩の面
構造を切る.切断関係より、断層破断に元雄も近いステージの流体の情報を保持した
鉱物脈であると考えられる.A方解石脈:implosion brecciaの基質を充点する方解
石.石英脈を切る.この方解石脈は断層すべり時の流体の情報を保持している可能性
が高い.以上2種類の鉱物脈中の流体包有物を解析し、鉱物脈沈殿時の流体の温度・
圧力を見積もった.その結果、石英脈中の包有物の捕獲温度より方解石脈中の捕獲温
度の方が数十度以上高い値を示すことが明らかになった.石英脈、方解石脈(implosi
on breccia)、そしてシュードタキライトの切断関係、および石英脈と方解石脈の捕
獲温度の違いは間隙水の熱膨張(thermal pressurization)によるhydro-fracturing、
fault jogやtension crackでのimplosion,そして急速な炭酸塩鉱物の沈殿が断層す
べり時に連続的に起こったことを示唆する.