修士論文中間発表 福村宏治氏
「地球の熱対流と物質分化の連結モデル」
2006年10月11日
本研究の目的は、これまで別個に議論されてきた、地球の進化に関する以下の物理的・
化学的性質を結びつけることである:パラメータ化対流による地球の熱史と、マント
ル・地殻間の地球化学リザーバーモデルによる物質分化である。
地球は現在冷却過程にあると考えられている。地球の熱史研究の中で大きな役割を果
たしてきたのは、パラメータ化対流理論である。この理論では、対流熱輸送による失
熱をレイリー数Ra記述して、熱史を考える。Ra・失熱の間の関係を使うと、複雑な対
流構造を簡略化して考えることができ、熱過程を考える上で非常に有用である。
また、地球内部で支配的な発熱メカニズムは、放射性元素の壊変によるものだと考え
られている。この放射性元素はマントル−地殻(海洋・大陸地殻)間の物質循環に伴っ
て分配され、マントル中の放射性元素の濃度は大きく変化する。しかし、地球の熱史
に関するこれまでのモデルでは、この分配効果は無視しており、一様な指数関数的放
射壊変が起こることを仮定していた。また従来の議論では検証する材料が少なかった。
モデルの結果として求められるのは過去のマントルの温度だけで、モデルに対する制
約が弱かったのである。
一方、同位対比の研究において、マントル−地殻間の物質循環は大きく取り上げられ
てきた。大陸地殻は、島弧の火山活動によって上部マントルからメルトが抽出されて
できたと考えられている。そこで、数値的手法により現在の同位体比を再現するgeoc
hemicalモデルが検討されてきた。各元素の分配係数と上部マントル−大陸地殻間の
質量フラックスを適当に仮定して、島弧火山活動による物質分化を記述するモデルで
ある。しかし、これまで考えられてきた質量フラックスは、かなりad hocに与えられ
ている。例えば、時間と共に指数関数的に減少するフラックスなどである。
本研究では、これら2つの物理的・化学的モデルを組み合わせることを考えた。熱史
モデルには、geochemicalリザーバー中の放射性元素濃度の時間変化を組み込んだ。
また、geochemicalモデルの上部マントル−大陸地殻間質量フラックスは、パラメー
タ化対流でのRaの関数として与えた。ここから、マントル・地殻中の同位体比変化と
整合的な熱史・対流史が求められる。マントル・地殻の同位体比は岩石中に記録され
ており、地球の熱的状態や対流の様子の検証に用いることができる。また、それぞれ
のリザーバー間の質量フラックスを時間積分は、各リザーバーの質量変化を示してお
り、大陸地殻の成長の計算することもできる。
今回、Rb-Sr, Sm-Nd, U-Th-Pbの濃度、同位体比、大陸地殻質量の観測を再現するよ
う、各パラメータを決定した。その結果、モデルを最適化するパラメータの組み合わ
せが存在する(global minimumを持つ)ことが分かり、また、現在の地球の状態をあ
る程度再現することができた。このことから、ここで考えたモデルは妥当であるとい
うことができる。まだ再現できていない項目については、更なるモデルの改良が求め
られる。