修士論文中間発表  佐々木潤氏

変成岩中に現れる褶曲構造の発達シミュレーション

2006年10月25日

近年、地球物理的、地質的観測から大陸や海洋プレート、島弧などが大きく変形し
ていることがわかってきた。しかし、そこからわかるのは、全歪量であって、応力の
絶対値を測定することは困難である。そこで、変形岩中に現れる褶曲構造に着目し、
その波形が応力の指標となり得るかどうか検討することはテクトニクスの観点から重
要であると言える。変形岩体の例として四国・三波川帯に露出する変成岩帯が挙げら
れる。この岩体はプレートの沈み込みに伴って、海洋性堆積物が地下数十キロに潜り
込んだ後、上昇してきたものであると考えられている。しかし、その上昇過程の詳細
に関しては未知の部分が多い。四国・三波川帯には、変形に伴う褶曲構造が普遍的に
存在するため、褶曲波形が応力の指標となれば、非常に有用である。

 褶曲構造の発達に関しては、微小変形時にはlayerとmatrixの粘性比によってコント
ロールされた波長が成長することが明らかにされた(e.g Biot 1961)。また、有限変形
のステージに関しては、主に単層系において、単一波長の増幅やlayer内の歪分布、初
期波形が及ぼす影響などが調べられ、ある粘性比に対して、unimodal modeが成長する
ことが確かめられた(Mancktelow 1999)。

 一方、四国・三波川帯において天然の褶曲波形をサンプリングした結果、layerが幾
重にも重なった構造など、単層系でない構造が数多く観察され、しかも卓越する波長は
複数あることがわかった。

 このように褶曲波形の波長は岩石のレオロジーとlayer&matrixの層序構造に依存する
ことがわかる。従って、これらの依存性が明らかになれば、岩石レオロジーの実験値を
用いてテクトニクス応力や水の混入の影響を評価できる可能性がある。しかし、有限変
形時のスペクトルの定量性や、単層系以外の層序構造に対するスペクトルの振る舞いは
、あまり調べられていないのが現状である。

 本研究の目的は、褶曲の有限変形シミュレーションにより
@単層系において、有限変形ステージでのスペクトルの振る舞いを調べ、
A単層系以外の層序構造を持つ系(主に多層系)のスペクトルの振る舞いを調べる
ことにより、天然に現れるような複数の波長が重なった構造を再現し、各波長成分の成
因を明らかにすることである。

 モデルは、Newton流体を仮定し、2次元の長方形領域を切り出し、有限要素法を用い
て計算を行った。得られた速度擾乱から波形の進化を計算し、各時間ステップ毎にフー
リエ解析によってスペクトルを計算している。

 単層系の有限変形シミュレーションの結果、初期ステージでは、スペクトルのピーク
を与える波長が時間とともに増加していき、あるところで一定値に落ち着くことがわか
った。従って、天然系の褶曲波形は初期ステージの粘性比を反映している可能性がある。

 次に、天然に現れるbimodal modeの成因として、@初期波形の影響A粘性率の変化B
層序構造の3つを考え、それぞれ検討した。その結果、初期波形の影響、粘性率の変化
ともにbimodal modeの形成には寄与しないことがわかった。層序構造については、主に
多層系の振る舞いを調べ、その結果、多層系は実効的に厚いlayerとして振る舞い、卓越
波長は単層系の場合より長くなることがわかった。また、相対的に厚いlayerに挟まれた
場合、多層系が一体として振舞うときの波長と各layer毎に決まる波長が重なった波形を
示す、つまりbimdal modeが形成されることがわかった。これにより、多層系においては、
layer間の間隔のばらつき方により、bimodal modeが形成されるかが決まることになる。