清水 以知子 氏 (地球惑星科学専攻)

沈み込むスラブの地震と"水" 〜高温高圧変形実験からのアプローチ〜

2007年6月6日

大地震の震源核は地下深部の脆性-延性転移領域にあるため,震源過程を
理解するためには塑性変形や化学反応などによる高温高圧での岩石物性の
変化を知ることが不可欠である.近年,特に注目されているのは地震発生
過程におけるH2O流体の役割である.地殻中深部の断層帯近傍や沈み込み
プレート境界の低速度高Vp/Vs比領域には流体の存在が推定されており.
深部低周波微動と流体との関わりも議論されている.震源域における流体の
挙動と破壊・断層滑りに至る素過程を解明することは,将来の地震の
長期的/短期的予測のためにも重要である.
 
沈み込むスラブの2重深発地震面については温度構造や相平衡解析から,
蛇紋岩化したマントルや海洋地殻の含水鉱物の脱水反応が地震を誘発する
という見方が強まっているが,脱水反応が岩石破壊に与える影響についての
物質科学的理解はたち遅れている.最近は Griggs 試験機やマルチアンビル型
超高圧発生装置を用いて高圧下での蛇紋岩の変形実験が行なわれるようになって
きたが,これらの装置では力学データの取得に困難がある.
 
我々のグループでは,日本で開発されたMK型変形試験機によって,モホ面付近の
高温高圧条件下(〜1GPa, 1000℃) で差応力を精密に決定する手法を確立した.
現在は蛇紋岩に焦点をあてて変形実験を行なっており,温度や歪速度条件を変え
て応力-歪曲線を決定した結果,従来いわれてきた「脱水脆性化」説とは異なる
「脱水軟化」を見いだした.フォーラムではこれらの成果の一端を紹介すると
ともに,より高圧(〜2GPa)をめざして新たに設計製作したMK型実験装置2号機の
概要を報告する.
 
なお,研究の背景や実験の技術的側面については昨年度発行された「構造地質」
特集号の以下の総説・論説を参考にしていただきたい:
 
清水以知子, 2006, 構造地質学における実験技術. 構造地質, No. 49, 1-4.
熊澤峰夫・清水以知子, 2006, 日本における固体圧変形実験装置の開発と研究の
系譜. 構造地質, No. 49, 5-14.
清水以知子・道林克禎・渡辺悠太・増田俊明・熊澤峰夫, 2006, 固体圧変形実験
装置MK65Sの設計と性能:内部摩擦の評価. 構造地質, No. 49, 15-26.