鹿倉 洋介 氏 (地球惑星科学専攻)
プレート沈み込み帯の内部変形運動と熱構造発達の数値シミュレーション
2007年6月27日
プレート沈み込み帯に特有の地形-内部構造は,プレート沈み込みに伴う
内部変形運動や熱構造変化などの内的作用と気候・環境要因によって規定
される侵食・堆積などの外的作用が相互に影響を及ぼし合って形成されて
いく.博士論文では,内部変形運動と熱構造変化をカップルさせた数値シ
ミュレーションにより,プレート沈み込み帯の内部構造発達過程を明らか
にすることを目指している.
プレート沈み込み帯における数千年-数百万年スケールの変形運動は,
プレート境界での変位の食い違い(断層すべり)運動が引き起こす弾性・
粘弾性複合システムの変形問題としてモデル化できる.この種の問題の解
は,一般に,随伴する弾性問題の解に対応原理を適用してラプラス空間で
の解を求め,それをラプラス逆変換して時間領域に戻すことで得られる
(Matsu’ura & Sato, 1989).我々が今求めたいのはプレートの定常沈み
込みによる変形速度場であるが,その場合は,上記の手順を全てスキップ
して,単に随伴する弾性問題で粘弾性媒質に対応する弾性媒質の剛性率を
ゼロとしたときの解を求めれば良い(等価定理;Fukahata & Matsu’ura,
2006).そこで,本研究では,随伴する弾性問題の有限要素法モデルを開
発し,等価定理に従ってプレートの定常沈み込みによる変形速度場の計算
を試みた.モデル化に際して,プレート境界での変位の食い違い(断層す
べり)はスプリットノード法で表現した.また,粘弾性媒質に対応する弾
性媒質の剛性率をゼロに近づけると体積ロッキングと呼ばれる現象が発生
するが,これは選択的次数低減積分により解決した.更に,地殻の隆起・
沈降を元の平衡状態に戻そうとする重力的効果は,地表面におけるストレ
スフリーの境界条件に組み入れた.プレートの定常沈み込みによる変形速
度場の計算から,以下のことが明らかになった:1)沈み込んだスラブの
厚さを無視した弾性?粘弾性平行成層構造モデルと沈み込んだスラブの厚さ
を考慮した現実的モデルの変形速度場を比較したところ,両者の全体的隆
起・沈降パターンに顕著な違いは見られなかった,2)沈み込むプレート
が厚くなると,下盤プレートの沈降域は広がる傾向が見られた,3)上盤
側のプレートが厚くなると,上盤側の隆起域が広がる傾向が見られた.
熱構造変化については,拡散,移流,発熱を考慮した有限要素法モデル
を開発し,テスト計算を行っている段階である.今後は,内部変形運動モ
デルと熱構造変化モデルをカップルさせたシミュレーションを行い,プレ
ート沈み込み帯の内部構造発達過程を明らかにしていく予定である.