桑谷 立 氏 (地球惑星科学専攻)
沈み込み境界における後退吸水変成作用

2007年7月4日

広域変成帯は一般にその上昇時期において後退吸水変成作用(Rehydration
metamorphism)を広く被っている。後退吸水変成作用の理解は、沈み込み帯
深部の流体挙動や高圧変成帯の上昇過程を解明するうえで不可欠である。
しかし、吸水変成作用は周囲に存在する水の量に依存して不均質に進行
するので、熱力学平衡論のみを考慮した従来の手法(たとえば
Thermocalcなど)では解析が難しい。
我々はまず、微分熱力学的方法(Spear 1993)を改良することで、単純・
理想的な系の下で温度圧力変化と外部からの流体供給が吸水反応の進行に
及ぼす影響を熱力学シミュレーションによって明らかにした。
一方、現実の吸水反応は変成帯における位置・岩相・変形構造などに伴い、
様々なスケール(鉱物粒子スケールから変成帯スケールまで)で不均質に
進行することが知られている。よって後退吸水変成作用の全容を把握する
ためには、天然系のサンプルを実証的に解析することが非常に重要である。
そこで我々は、後退変成岩にしばしば見られるシュードモルフ(元の鉱物
粒子の形を保存したまま、新しい鉱物で置換した組織)に注目し、天然
サンプルが被った吸水変成反応を定量的に評価する手法を新たに確立した
(Pseudomorph Hydration Meter)。この手法では、化学組成マッピング図と
定量分析データを基にマスバランス計算を行うことで、化学反応式・反応
進行度・物質移動量(特に吸水量)を同時に見積もることができる。本講演
では、この手法を三波川帯中の五良津エクロジャイトに適用した結果を
紹介し、後退吸水変成作用が高圧変成岩の上昇に及ぼした影響と沈み込み帯
深部における流体の挙動について考察する。