柵山 徹也 氏 (地球惑星科学専攻)
ダイアピル状上昇マントルの融解履歴と熱構造

2007年7月11日

 断熱減圧しながらマントルはどのような時間・空間スケールで、
どのようなメカニズムで融解してゆくのだろうか。海洋地殻やハワイ
などのホットスポット火山をはじめ、地球上の大部分の玄武岩は
マントルが断熱上昇し部分融解することで生成される(McKenzie and
Bickle, 1988; White etal., 1992)と考えられているが、その履歴
や上昇マントル内の構造に関しては未解明である。
 あるポテンシャル温度を有するマントルは断熱上昇するとある深さ
で融解を始める(McKenzie, 1984)。生成されたメルトはマントルから
分離、集積を経た後、地上や海底に火山として噴出する。メルトは
少量でも浮力と圧密によりその系から分離されるため(vonVorgen
and Waff, 1986)、マントルの上昇と共に融解は進行し、固相部分は
液成分に徐々に涸渇化していくはずである。このようにマントルが
累進的に融解していく場合、閉鎖系で融解が進行していく場合と
較べてメルトの生成量や化学組成が異なることが実験(Hirose and
Kushiro, 1998)や計算(Asimow et al., 2001)では指摘されている。
そのため断熱上昇マントルの融解履歴(融解開始から終了までの
プロセス)を実際に天然から明らかにすることが次のステップと
して重要である。
 マントルの流れと較べると非常に短いタイムスケールでメルトは
生成・分離・噴出するため(Faul et al., 2001; Condomines et al.,
2003)、火山は「融解履歴」を追うのに最適な研究対象となる。ある
程度古い陸上の火山は浸食により山体の断面が露出しているため
活動全体にわたる溶岩の時間変化を追うのに適している。そこで
本研究ではマントルの融解履歴を明らかにする目的で九州北西部に
8Ma頃から約2Myr活動していた玄武岩火山群(北松浦玄武岩)を調査
している。調査では溶岩流の時間空間変化を把握するために、まず
分布域全体(差し渡し約35km)をカバーするように4地域に関して溶岩
層序を確立した(西からA,B,C,D地域とする)。
 地質調査による溶岩層序および化学組成分析の結果、以下のような
特徴があることが明らかになった。
(1)溶岩は結晶の分別で組成トレンドを説明できるlow-SiO2、
medium-SiO2、high-SiO2の3グループに分けられる。各クループ間は
結晶の分別では説明できない。
(2)3グループの違いは融解(生成)圧力の違いを強く反映しており、
上記の順番で融解圧力が浅くなる(〜3.0GPa, 3.0〜2.0GPa,
2.0〜1.5GPaの順)。
(3)A,B,C地域では時間と共にhigh-SiO2の活動に遷移する。
(4)3グループは上記の順番で部分融解度を増していき、単一組成の
ソースマントルの累進的な融解で説明できる。
 主として上記の結論から本研究対象地域の火山活動は深さ約90km
(ザクロ石安定領域)から45km(スピネル安定領域)まで約200万年間
かけて、直径約70kmのダイアピル状のマントルが約2cm/yearの速度
で上昇しながら累進的に融解していったことによりマグマが生成さ
れたことで説明可能である。また溶岩の産状や化学組成の時間変化
から、上昇してきたマントルが冷却していくことでマグマの生成率
を減少させていった可能性もある。今回はこのようなマントル上昇
の融解過程とその熱構造に関して議論したい。