川端 訓代 氏 (地球惑星科学専攻)
断層帯流体流入に伴う物質移動

2007年7月11日

 地震発生後,次の地震までの準備過程に生じる断層帯の物理-化学
過程として以下の4つの機構が考えられている.それは(a)減圧
沸騰による瞬間的な鉱物沈殿,(b)物理的な圧密,(c)流体流入に
よる鉱物沈殿,(d)圧力溶解である.地震学の分野では圧力溶解は
強度回復の主力であるとされているが,地質学の分野では天然の
断層岩の観察から上記全ての機構が断層面を強度回復させ,また
その強度回復によって弾性歪みエネルギーが蓄積していくと考え
られている.特に流体が関与する変形が生じる(c),(d)では物質
移動が活発に起こり,強度回復と同時に断層帯の化学的―物理的強度
不均質化が進むと考えられる.これらの準備過程に起こる機構に
ついて,変形,物質移動量,継続時間について定量的議論がなされて
いる例は少ない.本研究ではメカニズム(c),(d)の強度回復過程に
おける変形,物質移動,継続時間を主に物質科学的手法によって
定量的に明らかにする事を目指す.
 今回の発表では断層運動に伴う流体流入による物質移動に関する
現在までの成果を発表する.強度回復過程における物質移動を
明らかにする為には重複変形の少なく鉱物脈が観察される断層帯を
用いる必要がある.我々は調査の結果領家古期花崗岩中に発達する
小断層が最も適していると考えこれを解析対象とした.最初に現在
観察される断層帯不均質構造(断層岩分布)を示す.またそれぞれの
断層岩と化学組成分析結果を対応付け,流体流入による断層帯物質
移動のモデルについて考察する.今後の研究としてモデルに基づいた
物質移動のシミュレーションを行い流体流量や継続時間を明らかに
する事を目指している.