上條 裕久 氏 (地球惑星科学専攻)
単斜輝石ポーフィロクラストから読み解くマントルかんらん岩の変形履歴
〜幌満かんらん岩体を対象として

2007年10月3日

 リソスフェアの主要な変形は、主にプレート境界やプレート
内部の剪断帯で起きている。地下深部での岩石の変形流動を理
解することは、地球のダイナミクスの理解や、時に大きな被害
をもたらす地震の活動様式と発生機構を解く上でも重要である
期待される。今研究は、地表に露出したマントルかんらん岩が
保持している変形に関する情報を抽出しその変形履歴を解明す
ることを目的としている。
 幌満かんらん岩体は日高変成帯を構成しているオフィオライ
ト起源の西帯と島弧地殻断片の主体を隔てる日高主衝上断層に
沿ってレンズ状に挟まれる。岩体の起源は上部マントルであり、
衝上する海洋地殻断片の底部として地表に露出したものとされ
る。上部マントルから地表まで上昇した際に被った変形・流動
の痕跡を岩石中に良く残しているという点で重要であり、リソ
スフェアの変形を理解するための研究対象として最適である。
 かんらん岩は主にかんらん石からなり、単斜輝石や斜方輝石、
スピネル等が2割〜3割程度含まれる。変形・流動の痕跡も主に
かんらん石に記録され、幌満かんらん岩のかんらん石のLPOより
Plagioclase peridotite領域に対応する温度圧力での変形挙動
が明らかにされた。本研究では今までわき役とされてきた単斜
輝石に注目する。
 単斜輝石はかんらん石と比べて異なる変形強度をもち、かん
らん石から得られるPlagioclase peridotite領域での記録より
さらに深部の情報を記録していると期待される。また、元素の
拡散速度が遅いことから特にAlのゾーニングを良く残している
という特徴をもつ。Alは地下深部の温度圧力に伴って変化する
ので、変形に対して時間変化の情報を与えることができること
から、変形履歴を考察するのに適している。
 単斜輝石はかんらん岩中でポーフィロクラストとして存在し
ている。これを詳しく見てみるとホスト粒子と、その周囲にか
んらん石と混合するように細粒化した粒子が見られる。EBSDに
よって粒子の動きを見てみると、ホスト粒子から外れるように
して細粒化していく様子が明らかとなった。かんらん石粒子は
外れようとする単斜輝石粒子の粒界にアイソレイトしているも
のが見られることから、単斜輝石の細粒化する際にできる隙間
を埋めるようにして生じたと考えられる。
 単斜輝石ホストから細粒化した粒子は左右にテールを引いた
ような形態をもつが。EPMAによって細粒化していく単斜輝石ポ
ーフィロクラストのAlマッピングと比較、検討することによっ
て、単斜輝石が持つ変形情報はSpinel peridotite領域、さらに
はGarnet peritodite領域まで遡るものであることが示唆される。
また試料中に散らばる単斜輝石ポーフィロクラストのホスト粒
子を抽出してそれぞれの結晶方位をプロットすると、弱いLPOが
存在するようにも見えるこのことは、幌満かんらん岩体が上昇
を始める以前の初期状態の記録まで記録している可能性を示唆
している。