草葉 陽子 氏 (地球惑星科学専攻)
九州四万十帯・延岡衝上断層下盤剪断帯の発達史
The History of Growth of the footwall of the Nobeoka Thrust
in the Shimanto
Belt
2007年10月3日
沈み込み帯での津波地震の地震発生断層として、付加体を切る
out-of-sequence-thrust(OOST)が考えられている。反射法地震探査によって描
き出されたOOSTでの極性の反転は、断層帯における流体の存在を示唆しており
(Park et al., 2002) 、沈み込み帯の断層運動と流体との間の関連が指摘され
ている。
九州の延岡衝上断層は、沈み込み帯深部で活動していたOOSTが地上に露出した
ものであり、沈み込み帯深部のOOSTの活動を知る上で、入手可能な貴重な手がか
りである(Kondo et al., 2005; Okamoto et al., 2006)。本研究では、延岡衝
上断層下盤剪断帯の剪断面の形成順序に着目し、流体の存在下でのOOST周辺の剪
断帯の発達について考察を行った。
下盤では、断層のコアから水平距離で約100mにわたって剪断帯が広がってい
る。この剪断帯では、断層のコアとほぼ同じ南北走向の右ずれ成分を持つ剪断面
と、北東‐南西走向をもち一部に右ずれ剪断を伴うリーデル剪断面や開口破断面
が数多く見られ、所々に脆性破壊を示す複合面構造が見られる。南北方向の剪断
面は、ジョグの部分を除けばごく薄く、一部に石英・炭酸塩からなる鉱物脈を伴
っている。一方、リーデル剪断面や開口破断面は、時として数cm以上にもなる分厚
い石英・炭酸塩の鉱物脈により充填されており、クラックシール成長の痕跡を示
すものも観察される。相互の切断関係から、これらの剪断面や鉱物脈により充填
された破断面は、一部の局所的に逆方向へ破壊が広がっていったと考えられる部
分を除き、概ね断層のコアの方向から下盤側へと広がっていったと推定される。
南北方向の剪断面に伴う鉱物脈の中には、少なくとも直径2μm以下の細粒の石
英や炭酸塩等からなる10μmほどの厚さの層を複数枚持つものが見られる。こう
した細粒石英・炭酸塩薄層は、剪断面に付随する鉱物脈中に見られることから、
破砕による細粒化もしくは流体からの急沈殿によってできた可能性が考えられる。
一方、複数の破断面が集まっている部分のリーデル剪断面や開口破断面に付随す
る鉱物脈は、壁岩との境界面を覆う粒径数十μm前後の石英と、その中を充填す
る粒径数百μm〜数mmの炭酸塩によって特徴づけられている。この結晶成長パター
ンから、破断面の集合体の中の一つ一つの開口部分がそれぞれ開口・石英沈殿・
炭酸塩沈殿の一度のイベントサイクルで形成されたと考えられる。
これらのことより、延岡衝上断層下盤の剪断帯は、一つ一つの剪断面が複数回
の断続的な断層活動を引き起こしながら徐々にすべり面を下盤側へと移してゆき、
剪断帯の幅を広げていったと推測される。これは、San Andreas断層やその周辺
の断層をはじめとする成熟した横ずれ断層に見られる、断層コアに向かって破壊
が収斂していく発達過程(Shear localization)とは異なっている(Chester et
al., 1993, ほか)。これらの違いをもたらす要因を探る手がかりとして、修士
論文作成までに、@破断面を充填する鉱物脈中の流体包有物から、破断面が充填
された時の温度圧力の変化を求める、A各剪断面の微細構造を比較する、等の手
法を用いて、剪断帯のより詳細な発達過程を明らかにする事を目指す。