北條 愛 氏 (地球惑星科学専攻)
付加体中メランジュの砂岩にみられる破砕流動

2007年10月10日

  構造性メランジュの形成は沈み込みプレート境界において
 非常に重要なプロセスだと考えられるにもかかわらず、その
 過程についてはいまだに解明されていない点も多い。これ
 まで、岩石の中でも堆積物からの続成過程や固結後の変形に
 付いて理論・実験を通して多く検討されてきたのは砂岩で
 あることから、本研究では過去のプレート境界で形成された
 テクトニックメランジュ中の砂岩に注目し、その変形履歴を
 明らかにすることで沈み込み帯における堆積物の岩石化
 プロセスの推定を試みた。
  調査地域は白亜系〜古第三系四万十帯に属する徳島県
 牟岐メランジュで、これまでの研究でテクトニック
 セッティングや最高被熱温度が推定されており、底付け
 付加によって形成されたテクトニックメランジュと考えられ
 ている(Ikesawa et al., 2003, Matsumura et al., 2005)。
 また、発見されたシュードタキライトは、牟岐メランジュが
 プレート境界の断層岩であることを強く示唆している
 (Kitamura et al., 2005)。牟岐メランジュは最高被熱温度の
 違いから2つのパート(Lower:130-150℃、Upper:
 180-200℃)に分けられ、さらに断層によって合計6枚のスラスト
 シートに区分されている。全てのシートに存在する、砂岩
 ブーディンが発達した黒色頁岩基質のメランジュの中から
 露頭を選び、露頭スケールでの観察と変形ファブリックの測定、
 さらに採取したサンプルを用いて砂岩ブーディン内部の観察と
 粒度分布測定およびEPMAを用いた分析を行うことで砂岩の変形
 と岩石化過程を検討した。
  観察より、メランジュ中にはm-μmオーダーで複合面構造が
 発達し、鉱物脈・圧力溶解劈開・web structure(脆性破砕に
 よって形成される黒色の帯状組織)が存在することを確認した。
 また、ブーディン内部で砂岩がブロック化している様子が観察
 された。組織どうしの切断関係より、ブロック化が砂岩の固結
 後に起こっていることがわかったため、ブロックの隙間を埋める
 暗色層に注目してさらに詳しく観察・分析を行った。暗色層に
 含まれる粒子について粒度分布測定を行ったところ、フラクタル
 分布を示す結果が得られた。また、SEMを用いた観察により、
 これらのブロックおよび粒子はシャープな破断面と稜をもつこと
 がわかった。さらに、暗色層とブロックについてEPMAを用いて
 組成分析を行った。これらの分析結果より、この暗色層は破砕
 流動(cataclastic flow)に伴って形成されたものと考えられる。
 これは、一度固結した砂岩内部で再度脆性破壊が起こっている
 ことを示している。