鈴木 岳人 氏 (地震研究所)
単一の無次元パラメータによる動的地震破壊の統一的理解
Unified understanding of dynamic earthquake rupture in terms of
the single nondimensional parameter


2008年2月27日



 熱と流体の効果及び非弾性な空隙率変化を考慮に入れた、動的断層運
動についての発表者のこれまでの研究をレビューする。まず1次元断層
モデルを仮定し、動的地震現象は単一の無次元パラメータSuを含む一つ
の枠組みの中で理解され得るという事を理論的に示す。ここでSuは非弾
性空隙率変化の増加率と摩擦発熱のレートの比である(Suzuki and
Yamashita, GRL, 2007)。例えば、Suの値の違いによって滑り弱化則と
強化則がともに生じる:Scをある臨界値として、Su<Scの時は滑り弱化則
となり、Su>Scの時は滑り強化則となる。
 続いて2次元断層モデルを考える。ここで、露頭の観察から、個々の
地震において断層面全体に渡って融解が起こらないと示唆されることに
注意する。この結果に基づき、温度上昇が断層岩の融点以下であると仮
定するならば、Suの値はゼロに近いか1以上となる。従ってSuの値に関し
てこの領域のみに着目し、2次元の計算を行った(Suzuki and Yamashita,
JGR, submitted)。もしSuがゼロに近ければ、外部剪断応力はほぼすべ
て解放されることになる(Suzuki and Yamashita, JGR, 2006)。それに
対して、Su>1においては滑り強化の振る舞いが現れ外部剪断応力は部分
的にしか解放されない:これは地震学的観測とより調和的な結果である
と言える。更にSu>1の時は、断層滑りがパルス的滑りの特徴を持つこと、
あるいは静的応力降下量が断層の大きさにわずかしか依存せず、1MPaか
ら10MPaの範囲にあること等の特徴が現れた。これらもまた地震学的観測
と調和的である。これらの結果から、浅い地震は1より大きいSuの値に
よって特徴付けられると考えられる。更にこの場合について、地震効率
と放射効率についての議論も行う。

参考文献:
Suzuki, T. and T. Yamashita (2006), Nonlinear thermoporoelastic
effects on dynamic earthquake rupture, JGR, 111(B3), B03307,
doi:10.1029/2005JB003810
Suzuki, T. and T. Yamashita (2007), Understanding of slip-weakening
and -strengthening in a single framework of modeling and its
seismological implications, GRL, 34, L13303, doi:10.1029/2007GL030260
Suzuki, T. and T. Yamashita (2008), Nonlinear effects of temperature,
fluid pressure and inelastic porosity on dynamic fault slip and
fault tip propagation: emergence of slip-strengthening and
pulse-like fault slip, JGR, submitted