2008年6月11日

田中 宏幸 氏 (地震研究所・火山噴火予知研究推進センター)

高エネルギーミュオン・ニュートリノによる地球内部の透視術

我々の宇宙の中では想像を絶する高エネルギー現象が起きている。そこで加速した宇宙線は驚くほど高いエネルギーを得て、地球を容易に突き抜けられるものすらある。宇宙線は大きく2種類に分けられる。宇宙空間を飛び交う、主に陽子からなる「1次宇宙線」とそれが大気と衝突して発生する「2次宇宙線」である。地上で検出できる宇宙線の大半は後者である。これまで、宇宙線の研究はその発生場所やエネルギー獲得のからくりに絡んで、宇宙創成の謎解きの有力手段の一つとして、第一線の宇宙物理学者、天文学者らが取り組む重要課題であった。その一方で、近年、宇宙線のような高エネルギー粒子が地球科学に果たす役割の重要さに我々も気づき始めている。特に、物質透過力の卓越したミュオン(ミュー粒子)成分やニュートリノ成分を利用すれば地球内部の様子が明らかになってくるだろう。いわば、これら粒子の透過度の違いを利用したミュオンやニュートリノの地球のレントゲン写真である。一例として、カリフォルニア大学バークレー校の Luis W. Alvarez(ノーベル物理学賞受賞)らのグループによって、60年代後期に遂行された実験が有名である。彼らはエジプトにある Khafre のピラミッド内部に隠された空き部屋の存在を探るためにミュオンの検出器をセットアップしたのである。地球内部の透かし撮りは、地震や火山活動のダイナミクスを探る新たな一手段になりうるだろう。本セミナーでは火山への適用例を中心に宇宙から地球へと飛来する高エネルギー粒子の利用技術を紹介する。