2008年10月22日

【1】 16:30〜17:10

野津 太一 氏 (地球惑星科学専攻・修士課程)

「遠山川断層的瀬露頭における断層岩研究―破壊開始点同定の可能性」

これまでの断層帯組織の研究から,断層面に関する断層帯組織の非対称性が指摘されている.また,断層近傍の微小クラックが破壊開始点に関して点対称的に分布すことを示すような,天然断層の観察・岩石破壊実験及びモデル計算による研究がなされている.厚みを持った断層帯組織の非対称性の成因は明らかでないが,局所的な応力の破壊開始点に関する対称性に起因している可能性がクラック理論の延長から推察される.

遠山川断層は長野県南部の領家帯に位置するほぼ垂直な右横ずれ断層であり,走向は東北東―西南西方向,全長は空中写真判読により約20kmとされている.的瀬露頭は,この断層上で確認された最大の断層露頭であり,2008年10月現在の全長は約80mである.本露頭の北東端では先行する野津(2007,卒論)でウルトラカタクレーサイト層を中心とする典型的な非対称構造が確認されたため,本研究では本露頭の非対称構造に関して更なる知見を得ることを目的とした.

これまでのところ,本研究では的瀬露頭の1/100(全体)及び1/50, 1/20(露出の著しい箇所)のスケッチを取り,本露頭の全体像を明らかにした.これによれば,本露頭の母岩は北盤・南盤ともに花崗岩であり,露頭の全体にわたって厚さ7cmの平面的で完全に固結したウルトラカタクレーサイト層(MUC)が観察される.露頭北東端ではMUCの南盤側は母岩に対して漸移的であるのに対して,北盤側は平滑であり,厚さ1mmの半固結ウルトラカタクレーサイト層(SUC)を伴う.この産状は露頭中部においても基本的に変化がない.しかし,露頭南西端では構造が南北逆転し,MUCの南側が平滑であり,SUCを伴っている.非対称性が逆転する箇所は約2mの長さを持ち,この範囲ではSUCがMUCの中央に位置する.特徴的なことに,この箇所ではSUCの厚さが最大で1cm程度まで増大しており,内部にはMUCの数mmサイズの岩片を含んでいる.

今回の発表ではこれらの記載を含む分析結果を紹介するとともに,この非対称性の逆転する箇所が的瀬露頭を含む遠山川断層セグメントの破壊開始点である可能性について議論する.

【2】 17:10〜17:50

太田 和晃 氏 (地球惑星科学専攻・修士課程)

「低周波地震はどこで起こるのか?―新たな震源決定法の開発と適用」

近年、西日本の南海トラフ沿いにおいて深部低周波微動、低周波地震、超低周波地震、スロースリップなどと呼ばれる通常の地震とは異なるゆっくりとした振動現象が相次いで発見され、同様の現象が世界各地で観測されている。中でも最も小さいスケールで観測される低周波地震は正確な震源決定が困難なことが問題になっている。四国西部においては低周波地震はおおよそ面状の分布をしていること、逆断層型のメカニズムを持つことがわかっており、これらの振動現象は「ゆっくり地震」と総称されるプレートの相対すべり運動がさまざまなスケールで観測されたものであるとして理解されている。

ところが、他の地域においてこのことは自明ではない。気象庁によって既に決定されている低周波地震の震源はより体積的なばらついた分布を示している。この低周波地震の震源をより詳細に推定するために、我々は全観測点での波形相関の総和(Network Correlation Coefficient: NCC)を利用し、波形同士の相関が持つ情報を最大限に引き出すことでその相対震源分布を精確に推定する新たな震源決定法を開発した。

この手法を適用して四国、及び東海地域の低周波地震の震源決定を行ったところ、それらは深さ方向にばらつきの少ない面状の分布をしていることがわかった。この結果は低周波地震がプレート境界に発生するプレート間の相対すべり運動であることを強く支持すると同時に、低周波地震の震源分布からプレート境界の明瞭な描像が得られる可能性を示唆している。

【3】 17:50〜18:30

小林 今日子 氏 (地球惑星科学専攻・修士課程)

「沈み込み帯におけるチャート層の続成・脱水と変形の関係―美濃帯犬山地域より」

プレート沈み込み地震発生帯の規模や分布は、様々な要因で決まっている。そのなかで、沈み込み帯の温度構造が地震発生帯を規定しているという仮説がある。温度が地震発生に影響を与える原因に関し、堆積物の脱水・続成が関係しているという議論がなされている。本研究ではチャートの脱水・続成に注目する。チャートはSiO2で主に構成される遠洋性堆積物である。遠洋性堆積物は陸源性堆積物に比べ、地震発生帯で担う役割が注目されてこなかった。そこで、遠洋性堆積物の脱水・続成が地震発生帯生成に及ぼす影響と共に、沈み込み帯におけるSiO2鉱物の挙動への理解を深めることを目的とし、研究を進めている。

遠洋性堆積物を含む付加体の中で、これまでに層序学的・構造地質学的研究がよくなされている美濃帯犬山地域を研究対象とした。本研究対象地域は上麻生ユニットに区分され、主に砂岩・泥岩・チャートによるチャート―砕屑岩シークエンスが覆瓦構造をなしている。チャートの傾斜はほぼ鉛直である。また層内褶曲や断層が顕著である。赤色チャートが卓越するが、白色・灰色・黒色のチャートを含む。チャートの年代は三畳紀からジュラ紀で、厚さは約100 mである。

チャートには非対称平行褶曲や断層、チャート層を切断する雁行状配列の石英脈が多数存在している。赤色チャートの中には厚さ数メートル置きに白色チャート層が入っている。白色チャート層は7μm〜1mmの石英脈の濃集帯である。石英脈には層に平行なものと高角なものがある。平行なものは翼部にもヒンジ部にもあるが、高角なものはヒンジ部にのみ見られる。翼部には更に、層平行石英脈を高角に切る緑泥石を含む脈がある。断層には、白色チャート層を含む褶曲を切断するものや、細粒物質とチャートの破片で埋められているものもある。また、スラストシート境界にはメランジュ状の剪断帯がある。雁行状配列の石英脈にはチャートの破片を含むものもある。

白色チャート層中に濃集する層平行石英脈がヒンジ部で回転していることから、褶曲は層平行石英脈以後に形成されたとわかる。ヒンジ部で層に高角な石英脈の量が多い事より、変形と同時的に続成作用が進行し、変形・脱水・クラックの形成・脈の沈殿が起こったということが示唆される。断層や雁行状配列の石英脈は褶曲を切断しているので、それらは褶曲以後に形成されたとわかる。沈み込み深度の増加に伴い、SiO2鉱物の相転位が進行し、変形がカタクラスティックに変化していったと考えられる。今後、流体包有物分析や剪断帯の詳細な調査によりチャート層の続成段階との関係を明らかにする予定である。

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