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固体地球フォーラム 2009 要旨


2009年 4月 22日 (水) 16:30〜18:00

「マントルに沈み込んだ物質の行方 〜地震学および固体物理学からの考察〜」

河合 研志 (東京工業大学大学院理工学研究科・地球惑星科学専攻)

マントル最下部 (D"領域) は地球の物理的・化学的進化を考える上で重要である。D"領域の理解のために、地震波を用いた地震波速度構造推定は有効な手段である。そこで、私たちは独自に開発を行った波形インバージョンと呼ばれる最新のデータ解析手法を用いて、D"領域の構造の詳細な構造推定を行っている。今回の発表では、私たちの最新の成果を紹介しつつ、マントルに沈み込んだ物質に焦点を当てて多角的に話をする予定である。


2009年 5月 13日 (水) 16:30〜18:00

「地球磁場の短時間変動:西方移動、ジャーク、ねじれ振動」

櫻庭 中 (地球惑星科学専攻)

地球の磁場は、金属コアのダイナミクスを直接的に反映しており、地球深部の情報をもったシグナルといえる。また古地磁気学によって復元される過去の地球磁場は、地球誕生から現在に至るまでの地球内部の進化に関する情報も与える。現在、大規模数値実験(シミュレーション)により、どのような条件下でどのような磁場が発生するかというフォワードモデリングが格段に進歩しつつある。本講演では、とくに数年から数百年程度の時間スケールの地磁気変動に焦点をあて、シミュレーションによってどのように再現されるのか、地球の深部が磁場を介してどのようにみえるのか、についてふれる。


2009年 6月 10日 (水) 16:30〜18:00

Rheology of serpentines, seismicity and mass transfer in subduction zone

Bruno Reynard (Centre National de la Recherche Scientifique)

Serpentinites have a lower density and lower viscosity than "dry" ultramafic rocks and it was proposed, based on numerical simulations, that they play a major role in mantle-slab decoupling, and in downward (sink) or upward (exhumation) motion of eclogites and ultra-high pressure (UHP) rocks in subduction zones. Rheological data on antigorite, the stable variety of serpentine in subduction zones, were obtained over a P-T range of 1-4 GPa and 200-500 /deg C that cover most of its stability field. The results confirm that serpentinites acts as a weak layer that allows significant mass transfer along the "serpentinized channel" and dynamic processes such as mantle slab decoupling, and mantle wedge convection. Regardless of the temperature, serpentinized mantle at the slab surface has a low viscosity that allows localizing the deformation and impeding stress build-up. It will limit the downdip propagation of large earthquakes, and allow viscous relaxation as an origin of post-seismic deformations and slow earthquakes. Models of growth and transport of a serpentinized channel using available kinetic and present rheological data explain high exhumation rates of eclogites and limited thickness of the channel at great depths (< 50 km), and slower exhumation in a thick hydrated mantle corner at shallower depths. Such channels may be difficult to detect from seismic tomography or using guided waves because of their small thickness (< 2-3 km).


2009年 7月 1日 (水) 16:30〜18:00

「マントルかんらん岩の脆性−延性遷移領域付近における変形機構と地震発生・摩擦溶融の関連性〜超塩基性シュードタキライトを含む断層系の変形組織〜」

上田 匡将 (京都大学・理学研究科地球惑星科学専攻・博士課程)

比較的規模の大きな浅部地震は岩石の脆性−延性遷移領域付近で発生するため、主要な地震の発生には地震前後の延性変形による応力蓄積と応力緩和が重要な影響を及ぼしていると考えられる。また近年、深発地震の発震機構に関して塑性変形の集中が引き金となって地震破断が起きる可能性も注目されている (e.g., Kelemen & Hirth, 2007)。

断層を構成する岩石 (断層岩) の一つであるシュードタキライトは細粒緻密でしばしばガラス質の脈状岩石で、地震時の激しい粉砕ないし岩石の摩擦溶融によって形成されたと考えられており、明瞭に地震を示唆するほぼ唯一の断層岩である。地震の化石であるシュードタキライトを含む断層岩は、このような地震破壊そのものに加えて、地震波を発生させない延性変形もしばしば記録しており、シュードタキライトからの地震記録解読は、遠隔観測による地震学的震源情報を補完し、震源発生機構解明に重要な役割をはたす事が期待される。

これまでに、メルトからの急冷組織をよく保存したかんらん岩由来の超塩基性シュードタキライトが報告されてきた (Obata & Karato, 1995; Anderson & Austrheim, 2006; Piccardo et al., 2007)。しかし、それらの形成条件は明確になっていない。一方、Ueda et al. (2008) は、急冷組織を含まないシュードタキライトを見出し、真にマントル条件での地震破壊の証拠であると主張した。本研究では上部マントルを構成するスピネルかんらん岩中に産するシュードタキライトの生成条件を特定し、マントル内における地震の発生機構を明らかにすることを目的としている。研究対象であるBalmucciaかんらん岩体には、様々なタイプのシュードタキライトが共存しており、同岩体の上昇に伴った条件変化の下で地震破壊を記録していることを示唆し、環境の変化に応じた破壊メカニズムの変遷を明らかにできる可能性がある。

発表者らの観察によりBalmuccia岩体のシュードタキライトは、かんらん岩マイロナイト剪断組織からS-C構造におよぶ様々な変形組織を呈する断層ネットワーク内に存在することが判明した。シュードタキライトは断層面上に厚さ〜1mm程度の薄く連続した脈として産し、シュードタキライト脈の境界は粗粒なかんらん岩を鋭利に切っていたり、粗粒結晶が細粒化した部分と入り組んだ構造をなしていたりする。この断層ネットワークは、断層の切断関係として、何回かの塑性変形・脆性破壊イベントの繰り返しを記録している。切断関係に基づいて断層の時間関係を調べてみると、より古い断層ではマイロナイト組織が卓越し、より新しい断層では鉱物粒の破砕組織が出現するという傾向を示す。シュードタキライトは、最も古いマイロナイト剪断帯、および典型的マイロナイト組織をもたず破砕組織が観察される一部のごく小さい断層をのぞいて、この断層系のほぼすべての断層に観察される。

変形組織の系統的時間変化から、同露頭に岩体の上昇・冷却過程での一連の変形機構の推移が推定できる。特に、最も古いマイロナイト剪断帯にシュードタキライトが伴っていないことから、同断層系にはかんらん岩における地震発生領域の下限(高温・高圧限界)が記録されていると考えられる。さらに、調和的にシュードタキライトを伴う断層脈の変形条件の推定と変形組織の解析から、地震性破断に関連したかんらん岩の振る舞いを解明できると期待される。


2009年 7月 8日 (水) 16:30〜18:00

「プチスポットマグマ生成における数値シミュレーション」

高橋 亜夕 (地球惑星科学専攻・博士課程)

日本海溝に沈みこむ約 130 Ma の太平洋プレート上には, プチスポットと呼ばれる非常に新しく (0.05-8.5 Ma; Hirano et al., 2006) 小規模な火山群が散在している。Hirano et al. (2006) では, プチスポットの形成要因として, リソスフェアの屈曲にともなってできた裂け目からアセノスフェアに存在するメルトが少量噴出したことが挙げられている。本研究ではこのモデルをもとに, メルト生成の条件, 主に温度・圧力・流体の影響を数値シミュレーションによって見積もった。現在までに確認されている海丘群・溶岩フィールドの分布および年代から, プチスポットは北海道海膨 (海溝アウターライズ地形) の東側斜面約 650 km にわたる広範囲で活動していたことがわかる。北海道海膨は, 日本海溝に沈み込む直前の太平洋プレートの弾性的反応により形成されているアウターライズ地形である。Parsons and Sclate (1977) のプレートモデルより推定される 130-133 Ma の太平洋プレートの水深は 6000 mbsl であるが, 北海道海膨では 5200 mbsl しかない。このリソスフェアの屈曲が最上部マントルでの流れの変化を引き起こし, 流線にそって広範囲で減圧融解が起こる可能性がある。Takahashi (2007) では, 北海道海膨の下の温度場と流れ場をモデル化し, メルト生成の可能性を見積もった。その結果, ドライの条件下では溶融は起こらないが, 系に 0.05 wt% のH2O が付加した場合にリソスフェア直下のマントルで incipient melting が開始することがわかった。これは, Hirano et al. (2006) で指摘されたメルト生成の深さと整合的である。さらに, プチスポットで採集された岩石の微量元素組成を再現するような熔融は, マントル (DMM) に H2O (変質海洋地殻から脱水した流体の組成を仮定) が 0.072 wt% 付加することで説明できることがわかった (熔融度は 0.2-0.4 % 程度)。


2009年 7月 22日 (水) 16:30〜18:00

「実体波波形インバージョンによる弾性・非弾性パラメータの推定: 日本下の1次元構造推定結果および3次元構造推定に向けて」

冨士 延章 (地球惑星科学専攻・博士課程)

我々は, これまで地震波形そのものを用いた内部構造推定手法として, 波形イン バージョンの開発に取り組んできた。

12月のフォーラムでは、カーネル行列の特異値分解 (SVD) によるインバージョ ンによる1次元構造推定結果について発表を行った。日本下のマントル遷移層で はQs値がPREMよりも小さいことが分かった。

今回の発表では共役勾配法 (CG) を行うことにより, SVDよりも少ない独立パラ メータ数でSVDの結果と調和的な結果を得ることに成功した。また, 効率的なカー ネル行列のカタログの作成を現在行っており, 本発表では, 3次元構造推定に向 けての取り組みも紹介する予定である。


2009年 10月 14日 (水) 16:30〜18:00

「プレート境界岩におけるメソスケールの物質移動量の見積もり」

宇野 正起 (地球惑星科学専攻・修士課程)

近年の地震波トモグラフィーの発達により,プレート境界における流体の存在の重要性が明らかになってきた.しかしながら,その流体の存在形態や移動の様式は良く分かっていない.本研究は天然の岩石から物質移動量を定量的に逆解析し,下部地殻条件下における物質移動の様式を明らかにすることを目的とする.調査対象は沈み込み帯起源の高圧変成岩である三波川変成岩帯であり,特に下部地殻条件下に相当するGarnet-amphiboliteに着目した.岩石の基本情報である温度圧力経路をGibbs法によって求めた.その結果岩体は14kbar, 550℃から11kbar, 600℃へと減圧上昇した記録を保持していることが明らかになった.さらに,物質移動の定量化のために,Garnetの分布の不均質構造に着目した.EPMAによる詳細なMappingにより,このmm〜cmスケールの不均質を定量化し,鉱物のモード比に基づいていくつかの層に分類した.各層に対してGibbs法の出力とMassbalance方程式を組み合わせることで,初期組成の過程無しで物質移動を定量的に求めることに成功した.その結果,岩体の上昇とともに主にPlagioclase成分が各層間を移動していることが示唆された.現時点では最も解析しやすい層の物質移動が定量化された.今後は,物質移動量の空間分布を多項式近似し,測定データによりパラメーターを最適化することでより広範囲に渡って物質移動量を定量化する予定である.


2009年 10月 28日 (水) 16:30〜18:00

「分岐断層の動的破壊シミュレーションにおける媒質不均質の影響」

田村 慎太朗 (地球惑星科学専攻・修士課程)

地震の断層すべりはほとんどの場合、折れ曲がり・分岐・ステップオーバーといった複雑なジオメトリーを越えて伝播する。このような複雑な伝播過程の支配条件を解明することは巨視的破壊過程の物理を理解する上で重要である。また、このような研究は破壊進展の予測可能性評価を通じて防災上の意義を持つ。例えば、沈み込み帯においてプレート間巨大地震の断層すべりが地表に到達する際に、どのように付加体を破壊するか予測できれば励起される津波の規模を推定可能である。具体的問題として、南海トラフのような沈み込み帯における破壊伝播を取り扱うには、少なくとも2つ以上の媒質、自由表面、断層面の非直線形状や分岐をモデル化する必要がある。その前段階として、2D-inplane 問題でモードIIの破壊が媒質境界上の主断層とそこから分岐する分岐断層上に生じる場合について考える。主断層に初期クラックを導入し、slip-weakening law に従う自発的な破壊進展を計算する。計算手法としては、スプリットノードを用いた有限要素法陽解法で行い、均質媒質下では境界積分法 (Kame et al., 2003) と調和的な結果が得られる事を確認した。今回は、一例として分岐角度が上盤側に30°の時に媒質不均質による破壊伝播の非対称性が分岐断層の振る舞いにどのような影響を与えるか検討する。


2009年 12月 9日 (水) 16:30〜18:00

「地象監視システム科学分野を創るために」

束田 進也 (地震研究所)

天気予報分野には、基礎科学から産業まである種の体系化された業界が存在し ます。端的に言えば、「予報官(気象予報士)になるんだ!」という夢を子供 が語ることがあるわけです。

これは観測から科学法則を見出し、将来の予測を行うという科学の本質の一つ が社会のニーズと結び付いているからです。一方、固体地球科学も人間社会と 強く関わりを持つ分野の一つですが、従来、現象の科学的解明、つまり結果の 解析に研究者の関心が集中し、将来の予測、つまり、個々に得られた科学法則 を予測という目的のために再構成し、何らかのシステムとして創り上げる分野 は十分に育ってきませんでした。また学問が細分化するにつれ、各々の研究が 社会と直接対峙する場面は減る傾向にあり、研究は盛んにおこなわれるが将来 の予測は分野としてなかなか行われないと言う状況を生んでいます。

私は、今、地象監視システム科学という分野を創る時期が来ていると感じてい ます。今回は地象の一つである「揺れの予測」についてと、地象監視システム 科学の概念についてお話したいと思います。


2010年 1月 27日 (水) 16:30〜18:00

"Complicated crustal deformation detected by synthetic aperture radar analysis"

高田 陽一郎 (海洋研究開発機構,地球内部ダイナミクス領域)

Interferometric synthetic aperture radar (InSAR) is a very powerful tool to detect surface displacements with high spatial resolution and good sensitivity to the vertical component. I will explain "What is InSAR?, How does it work for us?" in the first half. Since JAXA launched two L-band satellites, JERS and ALOS, we succeeded in detecting detailed crustal deformation over densely vegetated areas, which is impossible for other satellites launched by ESA, NASA, etc.

In the second half, I will talk about my recent analyses and those interpretations; the 1996 Onikobe Earthquake swarm, the 2008 Wenchuan earthquake, and the 2008 Iwate-Miyagi Nairiku earthquake, for which single fault models can not explain InSAR data. In stead, much segmented and complicated fault motion account for the data far better. Also, the fault model turns out to be consistent with regional crustal evolution (e.g., geologic data). Taiwan would be the best target to apply InSAR to elaborate the dynamics of accretionary wedge and the fault systems therein.


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