俳句

元東大総長の有馬朗人氏は俳人として著名であり、もうすぐ元になるだろう現京大総長の尾池和夫氏も俳人として知られている。というわけではないが、すこし俳句でもひねってみようかという趣旨。


雨降りてかえる目覚むや春至る

わらし子の声聞こゆなりおぼろ月

荒川の川波のどけし春の宴

家主がくれし小手毬威勢よし

五月雨や湿りがちなる下駄の音

雨止んで虫の声する寺の内


五月祭

緑深き池を背にする向切り


忽然と鳥は目覚める朝まだき

朝まだき外は鳥の声のみぞする

鳥の啼く声冴えわたる夏の朝

甲高き鳥の声する夏の朝

湿りたる土の匂いする夏の朝

風止んで甘き香のするはすの池

野分ありいつもの猫はどこへやら

月が出た出た大きい月ねと指をさす

月明かり照らす路傍に彼岸花


深大寺

薪を割る少年に道を問いにけり

秋野訪うてそば切りを食う自適かな

どんぐりをひろいて野川に放りけり

武蔵野の園の楓の名残かな

竹垣の端にとまりおり赤とんぼ

細長きひょうたんを残す秋野かな


稲わらのにおいふとする朝心地

うつむけるひまわり枯れ果つる身なり


隠岐

國賀浜、馬もちっぽけだけど俺もちっぽけだ

馬の眼でみる日本海、きのうは吹雪で寒かったろう

隠岐早春、芝の若芽を馬は食む

島、島というて、日本も島だろう

とんび啼き海おだやかな隠岐の春


蒸散のにおい満ちたり春の雨

湯屋の窓の中より見ゆる夏の空

雨上がり夏椿の花落ちにけり


エクセター

かもめわれを誘うがごとく飛びにけり

朝もやに甘き樹液の香りかな

羊遊ぶ夕映えの丘川向こう

青栗はいつのまにやら落ちにけり

塞がれし暖炉に音す夜寒かな

咳の猫にわれなにもなさざりき

あられ降る煙突を落つ三つ四つ

冬鳥の歌声ひびくクリスマス

澄みわたる青空うれし冬の朝

りす二匹芝生を駆ける冬の朝

スコットランド車中

電線のだらりと垂れるいなか道

ぼんやりと水平線がみえ隠れ

川岸に腰掛ひとつ村はずれ

いつまでも話の絶えぬ汽車の旅

陽の照って波きわだてり北の海


星も凍る蒼白い夜雪のあと

雪風吹きつける田に烏おり

月駆けて雲流れ散る冬の夜

芋売りの顔もほころぶ春日かな

ひぐらしや寺のそば屋は店じまい

雨降ってかよわき虫の声音かな


五月雨や止むも止まぬも上の空

葛の花こずえ見れどもあらざりき

うす氷にふれてよろこぶ赤子かな

春の日にゴイサギ一羽池の端

鳩じっと冷たき雨の中におり


2006年・秋

帰り路や灯りとぼせり菊の畑

病院を訪う人ありて吾亦紅

秋風や泣かず飛ばずと思うなり


池端の杭の席がえ都鳥

引越しを幾度見しか梅の花

夕谷中どこもかしこも梅の花

膳所

川掃除の貼り紙見えて膳所古道

つくだ煮のしじみは瀬田にあらざりき

城跡の春はのどかに過ぎにけり

雨上がりの風波立てて御殿浜


こでまりの花生けひとつカウンターの天ぷら屋の主は老いにけり

ガラス戸の光か細く老夫婦の店にひとり待つ天ぷらの音

古壁のカンバス蔦の自在かな


2009年・春

見るたびに青を重ねるけやきかな

窓辺よりけやき並木を見下ろせば今日の青さに驚かれけり

教会の灯かりはともり桜散る

春行きて語るあてなし遅椿

春雨にぬれる犬小屋いつぞやの楽しき日々は過ぎにけるかも


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