小学校に入学して、算数の時間、まず習ったのは足し算だったと思う。
1 + 1 = 2
2 + 4 = 6
足し算と同様、引き算も習った。
4 - 1 = 3
9 - 2 = 7
ぜんぜん問題ない。かんたんじゃん。
もうちょっと高度なのになると、こんどは繰り上がりの足し算というのをやる。
3 + 8 = 11
7 + 7 = 14
この程度の足し算はとくにむつかしくはなかった。なんとなく感覚的に答えを予想できた。
ところが次に待ちうける繰り下がりの引き算というやつは、ぼくを大いに困惑させた。
11 - 3 = ??
14 - 8 = ??
はっきりいってこんなのぼくには理解できなかった。まず「一の位」をみてみる。
1 - 3 = ??
4 - 8 = ??
小さいものから大きなものなんて引けるわけないじゃないか。しかし先生はこの問題を解くように言っている。じゃあなんとかしなくちゃならない。
そこでぼくは、小さいものから大きなものは引けないから、数字を逆にして、なんとか引けるようなかたちに強引にもっていった。
3 - 1 = 2
8 - 4 = 4
これならかんたんに計算できる。計算できたはいいが、これは正解ではない。なんとかこの結果をもちいて正解をつくることはできないか。
ともかく、
11 - 3 = 8
14 - 8 = 6
であることは指折り数えてなんとかかんとか知っている。どうしたらいいか。考えた末、ぼくは次の関係に気がついた。
8 = 10 - 2
6 = 10 - 4
これは偶然か?いやいろいろな場合を試してみたところ、これでいいらしいことが分かった。すなわちぼくが編み出した計算方法は、
繰り下がりの引き算に遭遇したら、あわてず一の位を逆にして引き算する。そうして出てきた答えが a だとすれば、答えは 10-a になる、
というものである。もちろんそのとき十の位から 1 引くことも忘れてはいけない。
この方法は、引き算を二回しなければならないという繁雑さはあったものの、常に大きい数字から小さい数字を引けばよいので、まったく合理的な計算手法であった。 10-a はどうやって計算するのかというかもしれないが、そんなのは足して 10 になる数字の組を覚えておけばよいのでなんら問題はない。
この発見は、小学一年生のぼくにしてみれば、かなり画期的なものだった。ぼくはそれ以後かなり長い間、というか今でも、この方法で引き算をしてきた。それでとくに不都合はないし、それ以外の方法があるとは思えないでいる。
もちろん今にして思えば、
11 - 3 = 10 + 1 - 3 = 10 - ( 3 - 1 )
14 - 8 = 10 + 4 - 8 = 10 - ( 8 - 4 )
なのであるから、まあ当たり前といえば当たり前である。しかしその当時、かっこなんていう記号さえ知らなかったし、ましてマイナスにマイナスを掛ければプラスになる、なんてことを知る由もなかったのだから、当時のぼくには、あの発見はなにか魔法のようなものに感じられた。
以上、引き算に関する個人的な体験を告白した。
(1999 年 9 月 14 日)