研究内容:地震現象の物理的理解へ向けて

非常に希に社会のあり方を変えてしまうほどの巨大地震が起きます.一方,地球上あちこちでほとんどいつも無数の小さな地震が起きています.どちらも本質的には同じ現象,地下の断層で起きる破壊を伴うすべり運動(破壊すべり)です.巨大地震の破壊すべりは広範囲で起きますが,同じように大規模な破壊すべりが起きても地震波がほとんど出ないこともあります.地震の振る舞いは多様です.何がこの違いを生むのでしょうか?地震を根本から理解するには,プレート運動による応力の蓄積や,岩石の破壊と摩擦すべりを支配している法則について知る必要があります.地震の複雑さや多様性をなるべくシンプルで現実的な物理法則で説明し,その振る舞いの予測可能性を高める,それが私たちの目標です.

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地震波形インバージョンによる地震破壊過程解析

地震が起きると多くの観測点で地震波が記録されます.多数の観測点の地震波形を同時に説明できる破壊すべりの分布を推定するのが断層すべりインバージョンといわれる手法です.私たちは手法を開発,改良しながら多くの地震について詳細な破壊すべりの推定を行っています.例えば東日本大震災を引き起こした東北沖地震は左のムービーのような破壊すべりの時間空間分布として推定されます.プレート境界の400 km x 200 kmくらいにわたって約100秒間,破壊すべりが起きました.最浅部で起きた大きな変動が大きな津波を引き起こしたことがわかります.他にも1995年の兵庫県南部地震や2003年十勝沖地震のような大地震から鉱山で観測される微小地震まで,同じような手法を用いて破壊すべりの詳細を明らかにしてきました. 断層面での破壊すべりの詳細から,震源の物理法則を考察できます.例えば私たちは断層すべりインバージョンの結果から破壊と摩擦の法則を推定する手法も開発してきました.その計算結果から,地震によってプレート運動が地球内部に蓄積したエネルギーが地震波エネルギーとして解放される割合もわかります.実は地震時には多くのエネルギーが周囲の岩石の破壊のために消費され,地震波にならないこともわかりました.地震のエネルギー放出が非効率的なのは不幸中の幸いです.

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ダイナミックな破壊過程のシミュレーション

弾性媒質中に断層面と摩擦法則を仮定して微分方程式を解き,地震の破壊すべりをシミュレーションすることができます.シミュレーションを通して,何が地震現象の本質的要素か同定することも一つのゴールです.最近重視しているのは複雑な断層面の形状が地震破壊に及ぼす影響です.現実の断層面は様々なスケールの凸凹を持ちます.地震は最初小さな凸凹から始まり,次々に大きなスケールの凸凹で破壊すべりを起こしながら大地震になります.このような状況を表現しようと問題の定式化および新しい数値計算手法を開発しています(左図) . 日本周辺の沈み込み帯ではプレート境界面にデコルマ,分岐断層などの特徴的な構造が発達します.局所的な構造が破壊すべりをどの程度コントロールするかも現在シミュレーションを用いて研究している重要な問題です.同様のシミュレーションをもとに東北沖地震を考察すると,破壊すべりが地表に達したことでダイナミックオーバーシュート(すべり過ぎ)が起き,それが地震と津波の規模を増幅したと考えられます.

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地震とゆっくり地震の総合理解を目指して

一般に地震の起こり方は複雑です.しかし平均的な地震の性質,たとえば地震の断層運動の大きさ(地震モーメント)と波動エネルギーの放射量の比は地震のサイズにほとんど依存しません.また地震モーメントは地震の継続時間の3乗に比例します.これらのスケール法則は地震が広い範囲で統計的に自己相似的な現象であることを示唆します. このような地震のスケール法則を満たさない奇妙な地震がここ10年ほど,世界各地で見つかってきました.西日本では深部低周波微動,低周波地震,超低周波地震,スロースリップというサイズの異なる現象がほぼ同じ時刻に同じ場所で起きています(左図).私たちはこれらの現象は共通のメカニズムを持つ「ゆっくり地震」というひとまとまりの現象であり,地震モーメントと地震の継続時間が比例するという,普通の地震と異なるが単純なスケール法則で関連付けられることを見出しました.但し,まだこれらの現象の背後にある物理法則はわからないことだらけです.私たちは現在地震観測,データ解析,シミュレーションなどの手法を用いて,ゆっくり地震と普通の地震の総合的理解を目指しています.


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