河合研究室では、地震波形インバージョン法による地球内部構造推定などの固体地球科学分野から、泥火山の科学から生命の起源を探る研究まで、分野横断的かつエキサイティングな最先端の研究に従事しております。

(1) 波形インバージョン法による地球内部構造推定
(2) 鉱物物理学に基づいた地震波速度構造の解読
(3) 広帯域地震観測のための野外調査
(4) 強い不均質媒質中の理論波形計算アルゴリズムおよびソフトウェアの開発
(5) ナノとミクロンスケールの摩擦の科学
(6) 大陸成長についての研究
(7) 固体地球科学から生命の起源の問題に挑む
(8) アウトリーチ活動

(1) 波形インバージョン法による地球内部構造推定

地球内部の地震学的構造を推定するために、私たちは地震波解析手法の開発を進めてきました。従来の研究では実体波の走時などといった二次データなどが用いられてきましたが、私たちの研究グループは地震波形をデータとしてそのまま用いる波形インバージョン法の手法開発を独自に行ってきました。波形インバージョンを行うためには、正確で効率的な理論波形計算および効率的な逆問題の定式化が必要で、それぞれアルゴリズムおよびソフトウェアの開発を行ってきました (Kawai et al. 2014; 詳しくはこちら)。

現在、その手法を実際の観測波形に適用することによって画期的な成果を上げつつあります。たとえば、地球進化の理解に重要な熱境界層の一つの核・マントル境界直上の最下部マントルの速度構造を鉛直方向50 km水平方向250 kmスケールで推定し、過去に沈み込んだ古プレートの行方およびホットスポット火山の起源に関する新たな知見を得ました。

最近の構造推定の研究



(2) 鉱物物理学に基づいた地震波速度構造の解読

波形インバージョンから推定した地震波速度構造を鉱物物理学に基づいて解釈し、20年来続いていた最下部マントルの大規模不均質構造の謎を解くと共に、核・マントル境界の温度をこれまでの見積もりよりも正確に3500℃と推定し、地球の熱史の理解に貢献しました (Kawai & Tsuchiya 2009)。
現在の地震波モデリングは地震波速度および密度が入力値として用いられていますが、鉱物物理学の進展からマントルの主要構成鉱物の弾性定数のデータが求まってきました (Tsuchiya et al. 2016)。たとえば、最下部マントルの主要構成鉱物のペロブスカイトおよびポストペロブスカイトの超高圧超高温の弾性定数および密度の値を用いて、最下部マントルで予想される地温勾配に対応する速度プロファイルを元に地震理論波形を計算したところ、S波に見かけの異方性が生じることがわかりました(Borgeaud et al. 2016)。さらに今後は、鉱物の量比や選択配向などを入力値として鉱物物理学に基づいた地震波のモデリングをすることを目指しています。

(3) 広帯域地震観測のための野外調査

地球内部構造をより詳細に調べるためには、蓄積された観測地震波形から最大限情報を引き出すための手法開発が大事です。ところが、手法の発展にもかかわらず震源観測点分布は偏っているので、地球進化の理解のために重要ではあるが解像度に乏しい領域がどうしても存在します。そのような領域を調査するためには、新たに地震計を設置して地震波の観測を行う必要があります。そこで、私たちは自ら地震計を設置して、観測された地震波形の解析を行っています。

文部科学省科研費「新学術領域研究(研究領域提案型)」に「核-マントルの相互作用と共進化~統合的地球深部科学の創成~」(研究代表者:土屋卓久)(15H05826)物理観測項目の核―マントルの地震・電磁気観測班(A03-1) (研究代表者:田中聡)は、特に最下部マントルの微細構造を推定するために、太平洋下の巨大S波低速度領域の境界部分を取り囲み、外核・内核の研究にも適した仮想的な巨大観測網の構築を目指して、地震観測の空白域であるタイにおいて約100 km間隔の広帯域地震観測網(Thai Seismic ARray: TSAR)を展開しました。観測点網は南北および東西に幅広く設置できるため、震央距離や方位のレンジが大きい観測によって地球内部構造の高い解像度が期待されます。東京大学地震研究所および海半球観測研究センターが保有する広帯域地震計 40 セットを利用する。タイのマヒドン大学のSiripunvaraporn准教授とその研究室メンバーと連携し、2016年度から2018年度にかけて40観測点の運用しています。2015年度は観測点決定のための予備調査(1期:11月, 2期:12月, 3期:1月)、2016年度は40点の観測点を設置しました。2017年度以降は、データの回収および解析を行う予定です。

(4) 強い不均質媒質中の理論波形計算アルゴリズムおよびソフトウェアの開発

波形そのものをデータとして用いて地球深部構造を推定する波形インバージョンでは、これまで主に長周期の表面波およびやや長周期のS波の実体波が用いられてきました。地球内部の長波長の構造が推定対象であるために、速度変化が緩やかな構造に対して効率的な理論波形計算手法が使われてきました。一方で地球深部のより短波長の不均質構造推定や地殻の中の流体や空隙を含んだ媒質中の構造推定が今後の研究対象となります。そのために、強い不均質構造を含んだ弾性体における理論波形計算アルゴリズムおよびソフトウェアの開発を進めています。

そのソフトウェアを用いて、岩石中に有限の大きさを持つ空隙および流体を含んだ媒質の弾性波動場の性質の理論的研究を行い、散乱体の大きさ、形状、固液の違い、密度による影響を定量的に見積もっています。そして、岩石実験との比較を行い、理論の検証を行う予定です。このように得られた結果は、物理探査、岩石試料の破壊過程の理解に繋がると考えています。

(5) ナノとミクロンスケールの摩擦の科学

地震は破壊を伴う地下の断層の滑りによって引き起こされます。その発生機構の理解には断層を構成する鉱物組成や流体の分布の情報が必要です。そこで、巨視的な断層面でのすべり特性は構成鉱物の摩擦特性及び弾性特性に支配されているという仮説ももとに、鉱物の摩擦の性質を物質科学の理論及び実験両面から地下の断層面で発生する地震の理解をすすめます。

現在は地質調査や掘削の研究によって示唆されている断層面の主要な構成鉱物である層状珪酸塩を対象にして研究を行っています。理論的な研究としては、その摩擦特性を密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算によって真の接触面における垂直応力と剪断応力の関係、つまりナノスケールの摩擦特性、を調べています。実験的な研究としては、化学組成や鉱物種の異なる試料に対して、2軸圧縮摩擦試験機を用いた擬似断層面での摩擦係数や回収試料の顕微鏡観察からミクロンスケールの摩擦特性を調べています(Kawai et al. 2015)。それらの結果をもとにナノスケールとミクロンスケールの摩擦特性を結びつける新しい物理法則の解明に挑んでいます。

これは物材研の佐久間博博士と広島大学の片山郁夫教授との共同研究です。

(6) 大陸成長についての研究

プレートテクトニクスによって生成された海洋および大陸地殻は収束帯において地球内部へと沈み込んでいます。地球の化学進化を理解する上でそれらの行方や量は重要です。特に、放射性物質に富む大陸地殻物質がマントル深部まで沈み込んでいるならば、地球内部ダイナミクスに大きな影響を与えたはずです。それらの行方を知るためには地震波を用いた内部構造推定が有効ですが、マントルの主要鉱物に比べてそれらの弾性的性質に関する研究例はほとんどありませんでした。そこで、第一原理計算によってそれらの鉱物の弾性的性質および相安定性を調べました。今後、は固溶体の効果も考慮して、大陸地殻を構成する鉱物の弾性的性質を調べ沈み込んだ地殻の弾性的性質を制約します。

第一原理計算手法およびレオロジーを考慮した見積もりによって、軽い大陸地殻物質がスラブの沈み込みに伴って地球深部へと沈み込むことを示しました (Ichikawa et al. 2013a)。超大陸の離合集散の時間スケールが沈み込みがある場合とない場合で10倍異なり、大陸地殻の沈み込みが合った場合に実際の地質記録と調和しました(Ichikawa et al. 2013b)。今後は地質学の知見も加えて、地球の真の大陸成長の理解に貢献することができると考えています。

これは地球生命研究所の市川浩樹博士と横浜国立大学の山本伸次准教授との共同研究です。

(7) 固体地球科学から生命の起源の問題に挑む

地球生命はいつどのような環境で誕生しどのように進化してきたのだろうか。この根源的な問いを、誰もが思いついて少しは考えたことがあるのではないでしょうか。私も中高学校の授業中などで考えたことがありました。その哲学的な課題に、いま世界中の研究者が科学的に挑んでいます。根源的な問いであるがゆえに、その謎解きには広範で高度な知識が必要になります。そのために、その素養を身につけるためには相当の時間と努力と辛抱強さが必須です。私は現状で生命の起源として有力な説は3つだと思います。1) 熱水系 2)火星(パンスペルミア説)、3)原初大陸、が生命の誕生・進化の場であるという説です。その謎解きのため、分野横断型の研究に挑もうとする野心的な学生を歓迎します。具体的には、私達の研究室では以下のテーマを提案しています。

(7-a) 極限環境のアナロジーとしての泥火山の固体地球生命科学

泥火山はメタンガスなどを発泡していることが多く、そのメカニズムや内部構造の理解は、石油や天然ガスに関わる資源の理解に重要です。また、泥火山には2つの物理化学的な特徴があり、1つは地殻深部から物質が運ばれ、もう1つは主にメタンガスを発泡し還元的環境をもつことです(二酸化炭素を発泡し、酸化的環境をもつこともある)。そのため、泥火山の科学は生命の起源の理解および極限環境における生命の進化の理解において重要です。

そこでまず、複数の泥火山の泥採取を行い、それぞれのゲノム解析および(粘土)鉱物の組成分析を行い、温度・phや組成の違いなどの指標に基づいて記載し分類をします。一方で、ゲノム解析を行い、各泥火山の環境における生息する微生物の種類を同定します。さらに、地震波を用いた泥火山の内部構造の推定や実験および理論に基づいて粘土鉱物の相安定性の制約します。それらを踏まえて、泥火山のメカニズムの解明し、地球における泥火山の知見をもとに、赤外線観測の解釈および惑星探査における着陸地点の決定などに貢献をしたいと考えています。火星の表層でない内部の物質は掘削などを行わないと得ることはできないですが、火星上の泥火山と考えられている岩体の分析により、火星内部の物質の情報を得ることができる可能性があります。

(7-b) 地震学から挑む初期地球環境をもつ原初大陸の行方

地質学および惑星科学の研究から原初大陸の化学組成の候補が検討されています。現状では、月の表層のアノーソサイトを主成分とする地殻とKREEP玄武岩による地殻で構成されていることから、アナロジーで地球の原初大陸が同様の組成であることが有力とされています。しかしながら、生命の起源とされる原初大陸は現在の地球表層の地質記録には岩体としては存在しないため、その仮説は検証できていません。現在存在しない原因は、構造侵食によって沈み込むスラブが削って地下深くのマントルへと運ばれてしまったからだとされています。その仮説を検証するために、それら地殻のもつ組成の地球深部の鉱物組み合わせとその相安定性を理論および実験から制約し、その弾性的な性質を調べ、データベースを作成します。それをもとに沈み込む原初大陸の存否および行方の制約を加え、仮説の検証および新しい説の提案を行います。

これは愛媛大学の西真之助教・Steeve Greaux研究員・岡山大学の館野繁彦准教授との共同研究です。

(8) アウトリーチ活動

(8-a) 地震ポータルの監修

数十年もの間、ニュースではバッテン(X)1つの本震だけが表示されてきましたが、本来は断層面が立体的にずれ、地上の広い地域に影響を与えています。例えば、3.11では南北約500 km、東西約200 kmのおよそ10万km2という広範囲全てが震源域とされているにも関わらず、仙台の数十km東方の一点だけが地震を引き起こしたかのように錯覚をしてしまいます。また、断層面の傾斜も重要です。例えば、断層面が斜めにある場合と鉛直方向にある場合とでは、その直上の地表に与える影響の広がりも異なってきます。

研究分野では、震源データを3次元的に可視化し、指で角度を変えたり拡大・縮小したりして地震を直感的に理解するツールが、マスメディアの分野では、わかりやすい地震の立体表示が地下断層の滑りをより深く理解するためには重要であると考えました。しかし、大量の震源データを処理するCPU/GPUなどのハードウェアと、3次元可視化を容易に実現するソフトウェアの両方の問題がボトルネックとなり、これまでは高度なプログラミングを必要とする高価な専門ソフトウェアしかありませんでした。

この問題を解決すべく、私たちの研究グループでは、特殊な可視化技術を持つ㈱ライブ・アース(東京都港区、代表:庄司真史)との共同研究で、震源データの3次元可視化と可動時間軸の実装により、地下断層面を直感的に把握できる地震の4次元可視化ツール 「shingen」 を開発しました。チップの高度化などのハードウェア進化と、3次元情報処理を可能にするライブラリの登場などのソフトウェアの進化により、高度な3D情報処理を容易に実現できる技術インフラが整ったことも、今回のツール開発を後押ししました。これにより、地震の位置、規模及び発生日時の情報から、視覚的に地震発生の状況のより正確な把握ができると共に、地下の断層面の適切な推定が行えるようになりました。

現在、この技術に興味を持たれたマスメディアと商談及び追加開発を進め、アカデミアの知見を社会に積極的に還元しようとしています。また、教育分野でも、私が担当した、2016年7月4, 5日の教養学部「惑星地球科学実習」で、地球科学の初学者向けに活用し、学生の皆さんから立体思考の素晴らしいレポートがたくさん提出されています。また、正しい地震の知識を伝える、地震に特化した情報ポータルサイトの準備も進めています。

(UCR-Proposal: 地震の4次元可視化/4D visualization of earthquakes)

(8-b) 新しい野外巡検教材の開発

効率的な野外巡検のためには予習、実習、復習の三段階が重要です。これまで、地質図、現場の写真、古くはスケッチをもとに巡検の準備及び調査の予習が行われてきました。地質図を読み取ることは、地質図の表記の理解が前提であり、人による記載方法の違いもあり、初学者には困難でした。また、現場の写真やスケッチによって、ある程度現場を想像することできますが、現場に着いてその地質にすぐに直感的に現実と結びつけることは専門家でも難しいことがあります。そのため、初等教育および大学の教養課程レベルにおいて地質学の野外実習を実施するには教える側および教わる側双方に敷居が高くなってしまっています。その結果、初等教育では地学というと暗記重視の科目となってしまい、実習というとせいぜい石の観察などにとどまり、科目が開設されていない場合すらあります。地球科学の醍醐味は実際にものを見てさわるといった観察および体験の実習にあり、そのことによって理解の度合いが全く異なります。そこで、地球科学の普及およびリテラシーの向上のために野外実習を気軽に行うことができる教材の開発が必要であると考えました。

予習および準備において、地質図および写真またはスケッチが用いられます。それらに含まれる重要な要素は、俯瞰的な視野および実習と同じ視点からの視野です。それらの視点を最新のIT技術を用いて補うことで、より直感的な予習を行うことを可能になります。また、時間および空間的な制約で実習を行うことができない場合もあるかもしれません。その場合であっても、ITの技術を用いたVR巡検は役に立つでしょう。いずれの場合であっても教材として扱う場合の障壁はハードおよびソフトの維持および数の確保です。ソフトはクラウド化を行い、アップデートを自動で行う方がよいでしょう。そのために、汎用性の高いインターフェースを用いてソフトウェアを開発し、ウェブブラウザ上で利用できるようにします。汎用のスマホ、タブレット、PCなどを利用することを想定し、実際の教育現場における障壁を低くしたいと考えています。

これは地球生命研究所の佐藤友彦研究員との共同研究です。