2008年10月8日

【1】 16:30〜17:10

田阪 美樹 氏 (地球惑星科学専攻・修士課程)

「上部マントル断片大島かんらん岩体の構造解析」

マントル流動の方向は,地震波P波の一番速い方向であり,P波の一番速い方向はかんらん石のa軸方向であることが知られている.よってかんらん石のa軸方向(結晶方位配列)を知ることは,過去のマントル流動を復元できる可能性があり重要である.かんらん石の結晶方位配列は理論的・実験的には多くの研究がなされ,歪増加と結晶方位配列の形成過程も明らかになってきた.しかし,天然の岩石で結晶方位と歪の関係を求めることは,天然の岩石に歪の指標がないこと,変形履歴が不明なことから,進んでいないのが現状である.よって本研究の目的は,天然のかんらん石の結晶方位配列形成と変形の関係を明らかにすることである.本研究では天然の観察結果とモデルの結果を組み合わせて,結晶方位から歪を見積り,結晶方位形成メカニズムを明らかにすることを試みた.

夜久野オフィオライト最下部に位置する大島かんらん岩体は,海洋地殻最下部に由来することが知られている.大島岩体は5×3km2のかんらん岩体で,主に構造的上位のダナイトと,下位のハルツバージャイトにより構成されている.大部分のかんらん岩は強く蛇紋岩化作用を被っており,本研究では比較的蛇紋岩化作用の少ない試料の解析結果について示す.採取した岩石を用いて,スピネルの伸張方向から面・線構造を決定し面構造に垂直・線構造に平行な面(XZ面)で薄片を作成した.大島岩体のかんらん岩の微細構造は粗粒等粒状組織 (0.7-1.0mm) が支配的であった.またかんらん石には亜粒界や亜結晶などの塑性変形時に再結晶作用で形成された組織も観察された.

これらの試料を用いEBSD法により,かんらん石の結晶方位定向配列の測定を行った.大島岩体のかんらん石の結晶方位定向配列は[100](010)すべり系,または[100](okl)すべり系が確認された.かんらん石の変形組織・結晶方位形成と歪の関係を解析するため,天然の岩石から求めることのできる2つの角度差に注目した.

(1) 個々の粒子のa軸(すべり軸)と試料の線構造方向の角度差

(2) 隣のかんらん石との角度差(misorientation angle)

(1)は転位クリープ中における結晶格子の回転により決定され,(2)は再結晶作用や転位の上昇などの局所的な変形により決定されると考えられる.これら2つの角度差(1)を縦軸,(2)を横軸に取った密度分布図を作成した.モデルでも天然にあう最適解を出すことで同様の密度分布図を作成した.この密度分布図は歪に応答して変化することが予測され,天然から得られる結晶の分布から歪を求めることが可能となる.モデルから求めた密度分布図は天然のかんらん石結晶方位配列から求めた密度分布図とも調和的な関係を示した.大島岩体のような粒界移動が卓越した動的再結晶機構を持つかんらん石では上記のモデルが適応でき,本研究で示した結晶方位密度分布図を用いることにより,かんらん石の結晶方位抵抗配列の形成メカニズムを明らかにできる可能性がある.

【2】17:15〜18:15

武藤 潤 氏 (ブラウン大学)

「岩石のすべり摩擦による放電発光と地震前兆電磁気現象について」

これまで地震に先立つ現象として、様々な電磁気異常(異常電磁波放射,発光現象など)が報告されている。地震活動に伴うこれらの電磁気異常現象の機構を解明するために,岩石破壊実験や高速岩石衝突実験から,岩石破壊中に電磁波(および光),荷電粒子,さらにはプラズマの発生が報告されている.しかしながら,その際の優先的な放射機構は明確にされておらず,なぜ電磁気異常が本震時の地震動に先立って観測されるのかという問題について,明確な答えは未だ得られていない.通常,地震は地殻中にすでに存在する断層の運動によって引き起こされる.そこで,地震前兆の電磁波放射機構の解明するために,断層運動の素過程である断層面上でのアスペリティ剪断に注目し,アスペリティの動きを模擬したPin-on-diskすべり摩擦実験を行った.天然鉱物(ブラジル産水晶および天然の黄鉄鉱)を用いたすべり摩擦実験では,垂直応力4 MPa,すべり速度約10-2 m/sというこれまでの岩石破壊実験や高速衝突実験よりも低応力・低すべり速度下にて,摩擦接点近傍からの発光(光子放出)を観測した.得られた光子の分光測定から,気体ガスの放電スペクトルが明瞭に観測され,発光は摩擦帯電に起因する気体の絶縁破壊(放電プラズマ)によって引き起こされることが明らかになった.テクトニックな活動に伴い,断層面上のアスペリティへ応力が集中し、本震前に断層面上では微小なアスペリティの剪断が次々と起こる。発光は地震すべり時(〜 1m/s)より低速度で観測されることから,本震前の微小なすべりの際に,アスペリティは摩擦帯電し,地殻中に含まれる天然ガスを電離し,放電プラズマが発生すると考えられる.断層面上での間欠的な放電プラズマの発生は,本震前の無地震動時の地震前兆電磁波放射の一因になり得ると考えられる.一方,本破壊(本震)時には,摩擦発熱により断層面の摩擦帯電量は減少し,その結果,放電強度は減少すると考えられる.この両機構により,なぜ本震前に電磁気異常(電磁波放射および地震発光現象)が観測されるのかを説明可能であると考えられる.

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