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固体地球フォーラム 2010 要旨


2010年 4月 28日 (水) 16:30〜18:00

「2つの無次元数による動的地震滑りの統一的なモデル化」

鈴木 岳人 (地球惑星科学専攻)

動的地震破壊における熱・流体・非弾性な空隙生成の間の相互作用の効果を、理論的・数値的に考察してきた。重要な成果として、Su と Su' という、系の振る舞いを支配する新しい2つの無次元パラメータを見出し、これによって動的地震破壊の多様な側面を統一的に説明できるようになったことが挙げられる(Suzuki and Yamashita, 2007, 2008, 2009, 2010)。非弾性な空隙が生じない場合は Su=0 であり、この値が大きくなるにつれて非弾性空隙の生成の程度が大きくなる。一方流体の流れの効果が無視できる時 Su'=0 であり、この値の増加は流れの効果が強化されることを表す。特に一次元モデルにおけるSuの重要な特徴として、ある臨界値 Sc (<1) があり、SuSc では(急激な応力降下の後に)滑り強化則が現れるということが解析的に見出された。

より現実的な滑り過程を考察するために、続いて二次元 mode III の問題を考えた。まず Su と Su' の値がともに(考えられる範囲の中で)小さい時、滑り強化則により破壊開始点付近で滑り速度が抑えられ、破壊先端域にのみ高速滑りが集中するという、パルス的な滑りが現れた。この特徴は多くの高速地震破壊に対して得られる地震学的観測結果と調和的であり、「通常の地震」と表現し得る。一方 Su と Su' の値がともに大きいという仮定の下では、流体の流入と滑り強化がバランスすることにより、弾性波速度よりもはるかに小さい破壊伝播速度を再現した。これによりゆっくりとした地震も説明できた。

最後に、Su と Su' の空間不均質を考えることで、アスペリティの特徴をもモデルに組み込むことに成功した。特にアスペリティを複数仮定した際には、マルティプルショックと時間遅れを伴う2つの地震が一つの枠組みで説明された。また動的地震滑りの振る舞いを予測するには、SuとSu'の長期的な時間変化の見積もりが重要であることも明らかになった。


2010年 6月 2日 (水) 16:30〜18:00

「付加体先端部におけるデコルマ帯の初期発達過程 〜三浦ー房総付加体の例〜」

亀田 純 (地球惑星科学専攻)

陸上付加体の中でも最も若いとされる三浦−房総付加体は、付加体先端部の構造発達を記録する重要な地質体と考えられている。これまでに Yamamoto et al. (2005) らを中心に地質調査や岩石の物性測定が行われ、デコルマ帯の形成とそれに引き続く一連の剥ぎ取り付加の様式が明らかにされつつあるが、一方で堆積物の鉱物学的な検討は十分とは言いがたい。本発表では、三浦ー房総付加体の鉱物組成の特徴とデコルマの発達過程の関連性について議論したい。


2010年 6月 23日 (水) 16:30〜18:00

「固体地球の初期化学分化:同位体地球化学からの知見」

飯塚 毅 (オーストラリア国立大学地球科学研究所)

地球史初期に起こった固体地球の化学分化は,現在見られる地球の大規模な層構造(コア−マントル−地殻)を形成したと考えられる.しかし,我々の地球史初期における固体地球進化についての理解は,他の時代と比べて,著しく乏しい.これは主に,>40億年前の地球岩石試料が欠如しているためである.近年,>40億年前ジルコンを用いた研究や,40-36億年前岩石の Sm-Nd 同位体地球化学から,遅くても42億年前には広い範囲で地殻−マントル 分化(地殻形成)が起こっていたことが明らかになってきている.本発表では,まずこれまでの固体地球初期化学分化の研究を概説し,その後,初期化学分化の時期・性質にさらに制約を与えるために,我々がすすめてきた二つの研究について話をしていく.

(1)40-36億年前岩石の Hf-W 同位体地球化学

短寿命核種 182Hf の放射壊変を利用する Hf-W 同位体法は,コア−マントル分化や地殻−マントル分化の時期に制約を与えうる.我々は,40-36億年前岩石の W 同位体分析を行い,その結果とこれまでに報告されているその岩石の Sm-Nd 同位体分析結果を組み合わせることにより,地球の初期地殻−マントル分化が 44.9-43.5億年前に起こったことを示した.また発表では,コア−マントル分化の時期についても議論したい.

(2)モナザイトの U-Pb 年代及び Sm-Nd 同位体地球化学

40億年前ジルコンの多くは,オーストラリアに産する約30億年前の堆積岩から見つかっている.本研究では,その >40億年前ジルコンの源岩の性質に制約を与えるために,同じ堆積岩に含まれるモナザイトの U-Pb 年代及び Sm-Nd 同位体分析を行った.その結果は,>40億年前ジルコンの源岩はモナザイトに乏しい岩石(狭義の花崗岩以外の岩石)であったか,もしくは,>40億年前ジルコンは何度も堆積岩化リサイクルを経験しており,その間にモナザイトは失われてしまったことを示す.


2010年6月30日 (水) 16:30〜18:00

「地震波解析からプレート運動の理解へ」

谷本 俊郎 (地球惑星科学専攻)


2010年10月 6日 (水) 16:30〜17:15

「西南日本白亜紀−古第三期花崗岩活動に関する年代学的研究」

飯田 和也 (地球惑星科学専攻・修士課程)

花崗岩は大陸地殻の主要な構成物であり、その成因を明らかにすることで、大陸の成長に関して重要な制約が与えられると考えられている。岩石学的、地球化学的な研究から、上部地殻を構成する花崗岩は沈み込み帯での火成活動が寄与していたことが明らかになっているが、花崗岩の成因は未解明の点が多い。

西南日本では、年代学的な研究から、花崗岩の生成モデルが提唱されている。Kinoshita and Ito (1986) は白亜紀から古第三期の花崗岩が西から東、南から北に向かい若くなることを示唆し、花崗岩の成因として、海嶺沈み込みモデルを提唱した。しかし、Suzuki and Adachi (1998) は花崗岩のCHIMEモナザイト年代に基づき、東西で年代は変化しないことを示しており、花崗岩の年代の変化については明らかになっていない。このような違いは、年代測定の手法の違いや、データの密度の不十分さが原因として挙げられる。

本研究では、ジルコンU-Pb年代測定から、西南日本白亜紀、古第三期花崗岩の年代の変化を検証することを目的とした。香川から鳥取にかけての南北方向、幅50kmの領域を調査地域とした。U-Pbの同位体比測定にはLA-ICPMSを使用し、71サンプルの年代測定を行った。分析から、以下のことが分かった。

(1) 95-60Maの間、南から北へ向けて花崗岩の年代が若くなっている。

(2) 調査地域の花崗岩の年代は95-60Ma、50-30Maを示し、60-50Maの年代を示す花崗岩は確認できなかった。

(3) Sr同位体比初生値のコンパイルや全岩化学組成から、年代とともに同位体比、組成が変化していることが示唆される。

これらのデータに基づき、西南日本白亜紀−古代三期の花崗岩生成モデルの考察を行った。西南日本では、四万十帯の緑色岩 (君波ほか, 1992; Osozawa, 1992) や海洋底の地磁気 (Larson and Chase, 1972) から、白亜紀から古第三期に海嶺が沈み込んだことが示唆されている。本研究では、シミュレーションにより海嶺沈み込みが花崗岩の成因となるか考察を行った。


2010年10月 6日 (水) 17:15〜18:00

「『だいち』データを用いた Qaidam Basin 南西の変動地形解析」

白濱 吉起 (地球惑星科学専攻・修士課程)

Qaidam Basin は,インド−オーストラリアプレートの衝突に伴うチベット高原の北への拡大が進行している地域である.しかし,厳しい気象・土地条件により十分な研究がなされず,その拡大メカニズムはいまだ解明されていない.Qaidam Basin は Kunlun Fault と Altyn Tagh Fault の2つの大きな活断層で挟まれ,盆地内部には圧縮に伴う様々な変動地形が分布している.これらの地形・地質構造の発達について知ることは拡大モデルを探る上で重要である.そこで我々はこの地域における大規模な変動地形を捜索し,Qaidam Basin の南西にある Kumukol Basin の背斜構造を対象にした変動地形解析を行った. 地形分類図の作成にあたってALOS(だいち)のPRISM画像を用いて写真判読を行い,判読結果は逐次GISを用いて地形・地質データと統合し,地形発達の検討を行った.判読によって Kumukol Basin には,走向ESE‐WNWの波長 40 km にも及ぶ大規模な背斜構造があることが分かった.背斜上には,南縁の山脈から流れ出た河川によって,扇端まで約 70 km,扇幅 90 km を越える扇状地が残されていた.この河川は,現在,背斜構造を貫く先行谷となっており,背斜の成長に伴って多数の段丘面を両岸に残している.最高位の扇状地面は段丘崖の浸食状態から,一つ前の氷期(140 ka)に周氷河作用によって形成された後,断層運動によって上に凸の変形を受けたと仮定すると,扇状地面の変位量は最大 285 m であることから,この地点の隆起速度は最大で約 2.0 mm/yr と推定される. 本地域の活褶曲は波長が 40 km に及ぶ大規模な構造であり,その原因は地殻深部まで及ぶ断層運動ないし流動変形による可能性がある.


2010年10月13日 (水) 16:30〜18:00

"Tremor and Slip on a Frictional Interface with Critical Zero Weakening in Elastic Solid"

Yehuda Ben-Zion (Department of Earth Sciences, University of Southern CA Los Angeles)

Non Volcanic Tremor (NVT) and related relatively weak and slow slip events, termed jointly Episodic Tremor and Slip (ETS), are observed below the seismogenic sections of numerous subduction zones and major strike-slip faults. These events have several distinguishing characteristics including moment-duration scaling relation with exponent less than 2, intermittency and flickering behavior, relatively small slip, high susceptibility for triggering, and temporal occurrence with numerous periodicities. Here we show that a frictional fault in elastic solid with a strip below the seismogenic zone having critical zero weakening during slip provides a simple unified explanation for the diverse observed phenomena associated with ETS. The results imply that ETS have little to no predictive power on the occurrence of large events in the overriding seismogenic zone. Additional model predictions that should be tested with future high-resolution observations are fractal slip distributions and failure areas, potency/moment proportional to area and duration proportional to effective source radius (producing together the observed moment-duration scaling), discrete power law frequency-moment statistics with exponent 3/2 and exponential tapering, overall scale-invariant potency/moment time histories, and parabolic (or exponential) source time functions for event sizes measured by duration (or moment).


2011年 1月 12日 (水) 16:30〜18:00

「花崗岩地殻の沈み込みと遷移層下部への一方的集積とマントルダイナミクス」

丸山 茂徳 (東京工業大学・理工学研究科・地球惑星科学専攻)

花崗岩は密度の小ささから、いったん形成されると永遠に地表にとどまり、大陸を一方的に肥大させてきたと考えられてきたが、この常識が非常識であったことを示す。その根拠は (1) 島弧の直接的な沈み込みの観察 (西太平洋)、(2) 構造侵食の普遍的存在、および陸上地質の更なる証拠、(3) 過去の大陸地殻の沈み込みの推定量 (地表大陸の質量の約10倍)、(4) マントル深度での密度変化 (第一原理計算、超高圧実験)、更に (5) PREM との比較から導かれる花崗岩の推定量は地表のそれの 6-7 倍、などです。花崗岩は自己発熱しますから、マントル対流や、熱史に多大な影響を与え、ウイルソンサイクルなどを根本から考え直し、さらにスーパープルームの起源と進化にも影響をもつでしょう。これらを議論することをしましょう。


2011年 1月 26日 (水) 16:30〜18:00

「巨大地震と自由震動」

谷本 俊郎 (地球惑星科学専攻)

マグニチュード8.5を超える地震は1950-1965年にかけて5回おこり (1950 Assam M8.6, 1952 Kamchatka M9.0, 1960 Chile M9.5, 1964 Alaska M9.2, 1965 Rat Island M8.7),その後約40年間起らず,21世紀に入ってから,いままでのところ4回起っている (2004 Sumatra-Andaman M9.1, 2005 N.Sumatra M8.6, 2007 S. Sumatra 8.5, 2010 Chile M8.8). 頻度を考慮すると,今世紀の4つの地震は巨大地震を理解する上できわめて重要なデータとなることは間違いがない.

これらの巨大地震によるすべりはプレートの瞬時における動きに相当するが,そのサイズの大きさから,プレートの長期に渉る挙動との関係を考えるうえで重要な情報を含んでいると考えられる.今世紀の地震については,測地のデータと地震のデータをあわせて,きわめて広帯域の研究が可能であり,すでに多くの研究者が調べている.しかし、いままでのところ自由震動のバンド (0.3-3ミリヘルツ) はあまり活用されていない.このセミナーでは,最近の巨大地震の自由震動のデータ,自由震動の基礎理論を紹介し,解析結果について議論する.いくつかの地震については,CMT解では説明できないことが存在することを示す.


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