2011年 4月 6日 (水) 16:30〜18:00
「東北沖巨大地震の震源像とダイナミクス」
井出 哲 (地球惑星科学専攻)
本年3月11日の巨大地震についてはまだ震災の終わりが見えていない状況である。この間、我々は各種地震波データの解析によって地震時の破壊すべりの様相を明らかにした。今回の固体フォーラムではその分析結果を軸に、この地震がどのようなものであり、地震学の常識の何を支持し、何を否定したかを考えてみる。
遠地地震波の経験的解析から求めた破壊すべりはいくつかのフェーズに区別出来る。まず最初の約3秒は振幅の小さな地震波で特徴付けられる。続いて約40秒間、高周波の波を強く励起した破壊すべりが破壊開始点より陸側で起きている。いわゆる陸側の固着域を破壊したものだろう。その後60秒から70秒後にプレート境界浅部、海溝に非常に近いところにすべり速度の極大域が現れる。このすべりは破壊開始点付近から一気に浅部に到達し、さらに深部に戻っている。おそらく自由表面の破壊に伴うダイナミックオーバーシュートであろう。この自由端の破壊により局所集中した津波波源が生まれる。また、プレート境界の応力が動摩擦レベルを下回り、地震発生後にM6級の2つの低角「正」断層の余震を起こした。但し、この浅部のすべりは高周波波動の生成への寄与は小さい。むしろその後に深部で起きたすべりによって沿岸の高周波波動は説明可能である。大きなすべりの分布は前震および余震活動によって縁取られるような形になり、その範囲は地震活動から想像されるより一回り小さい。
この地震の運動は比較的安定的な浅部のすべりと地震波を良く放出する深部のすべりが交互に干渉し合って起きたと考えられる。特に海溝近傍でのダイナミックオーバーシュートはいわゆるアスペリティモデルやその連動メカニズムでは説明出来ない。そもそも浅い部分を固着域として考えるのが妥当か疑問である。一方で明治三陸地震や1994年三陸はるか沖地震で見られたようにプレート境界の個々の部分が特徴的な運動をするという点は今回の地震でも確かめられた。東北沖大地震はエネルギー収支的には決して津波地震ではない。しかし、もし浅いところだけの運動であれば津波地震に近いものになった可能性はある。今後の海溝型巨大地震を予測する上で、このような浅部と深部の異なる特性を考慮したモデル化が望まれる。
2011年 4月 20日 (水) 15:30〜17:00
「副成分鉱物の放射性同位体から読み取る惑星地殻進化」
飯塚 毅 (地球惑星科学専攻)
惑星の地殻進化は,その惑星の熱史や分化過程を反映し,表層環境の変遷を促す.したがって,その進化を理解することは,惑星の進化を議論する上で重要となる.我々は,ジルコンやモナザイトなどの副成分鉱物の放射性同位体を用いて,地球の大陸地殻成長史及び初期地殻進化について調べてきた.
- 川砂ジルコンの同位体組成から探る大陸地殻成長史
巨大河川は,広大な領域の地殻を浸食しており,その河口に含まれるジルコンは,大陸上部地殻を構成している花崗岩の同位体情報を保持している.我々は,ミシシッピー川やアマゾン川などの世界主要河川の川砂ジルコンのハフニウム同位体組成を決定することにより,初生的な大陸地殻の形成と成長が,約32億年前及び13億年前に起こったことを,示した.
- 太古代鉱物試料の同位体組成から読み取る初期地殻進化
これまでに見つかっている世界最古岩石は,北西カナダに産する40億年前の花崗岩質片麻岩であり,地球史最初の5億年間に形成された岩石は見つかっていない.しかし,西オーストラリアナリヤー岩体堆積岩中には,〜44億年前のジルコンが含まれており,地球における地殻形成は,40億年前以前から起こっていたことを示している.我々は,>40億年前のジルコンが,ナリヤー岩体以外にも存在することを発見し,地殻形成が40億年前以前から,広範囲で起こっていたを示した.また,ナリヤー岩体堆積岩中に含まれるモナザイト鉱物のネオジム同位体組成から>40億年前地殻が,巨大大陸存在下で形成されるSタイプ花崗岩ではないことを示した.これらの結果は,地球初期において,地殻形成は頻繁に起こっていたが,形成された地殻が効率良くマントルにリサイクルしたために,大陸の形成が進まなかったことを示唆する.
これらの研究を紹介した後,現在進めている小惑星の初期地殻進化に関する研究を簡単に紹介したい.
2011年 4月 27日 (水) 16:30〜18:00
「蛇紋岩の透水率と沈み込み帯での流体移動 」
片山 郁夫 (広島大学・理・地球惑星システム学専攻)
沈み込み帯での水の循環は,島弧の火成活動のみならず,地震の発生にも密接に関与している。水の存在形態は,含水鉱物のように結晶中に取り込まれて存在する場合と,粒界やクラックなどに分布する場合に分けられる。本発表では,後者の粒界に存在する水の移動速度について,室内での透水実験の結果をもとに紹介する。含水鉱物の脱水反応により沈み込むプレートから吐き出された水は,浮力のため直上に上昇すると考えられているが,蛇紋岩などのように片理が強く発達した岩石では,浸透率に異方性が生じ,水の移動は片理にそって移動しやすい傾向を示す。これは,プレートから吐き出された水はプレート境界面に沿い選択的に上昇し,マントルウェッジを含水化するには至らないことを意味している。また,そのようにプレート境界面を上昇する水は,島弧モホ面で難透水性であるガブロに突き当たり,水の移動は妨げられる。この場合,モホ面直下で含水プールが形成され,そのような水が深部低周波微動などのゆっくり地震を誘発しているのかもしれない。本講演では,水の移動や分布に焦点をしぼり,沈み込み帯で起きているダイナミクスへの影響についてみなさんと一緒に議論したい。