潮汐は地震を引き起こすのか?

潮汐は地震を誘発するか?

 地震が潮汐によって引き起こされるかは古くから興味の持たれてきた問題であり、現在でも未解明のことが多くあります。プレート運動によって、年間30kPa(キロパスカル)程度の割合で断層面に応力(単位面積あたりの力)がたまっていきます。地震が起こるには数MPa(メガパスカル)の応力蓄積が必要です。潮汐による断層面の応力変化は数kPaで、通常、それだけでは地震を起こすのに足りません。しかし、ある断層にあと少しで地震が発生するくらい応力が蓄積されていた場合には、潮汐力が最後の引き金となって地震が起きることがあります。どのくらい応力が蓄積されているかは断層毎に違います。そこで、多くの断層について、潮汐力の時間変化と地震発生時間を調べることで、潮汐力がどの程度、地震発生に影響するか、統計的に見積もることができます。

 最近の研究から、巨大地震の震源域の一部で、地震発生の10年程度前から、潮汐によって小さい地震が引き起こされやすくなるという現象(例えばTanaka, S., 2011)や、微動や低周波地震などのスロー地震が潮汐で引き起こされるといった現象が報告されています(論文多数)。これらは、1日以内の周期の短周期の潮汐に対する応答を調べたものがほとんどです。

 長い周期の潮汐としては18.6年がよく知られていますが、ほかに月の遠地点に関連した8.85年という極めて弱い潮汐があります。下の図は、この周期と、関東~東北~北海道のM>7.5の歴史地震の発生との関係を調べたものです(Tanaka, Y., 2013)。大変不思議なことに、極めて弱い潮汐であるにも関わらず、地震発生が8.85年のサイクルのうち2年間に集中しています。この集中が偶然起こる確率は0.1%よりも小さくなります。このことは、ある範囲の地震を集団で見た場合、大きい地震が起きやすい時期はある程度、決まっており、おそらく数100 kmの範囲で共通する応力擾乱が約9年周期で働いていることを示唆します。論文では、弱い潮汐力が増幅されるための仮のメカニズムとして、太平洋プレートの押しが月の長期的な軌道運動に同期して強まる「プレート潮汐」というものを考案しましたが、直接的に検証するには、周期的な地殻変動を観測で捉えるのが重要と考え、研究を進めています。

左図:東日本の大地震(宇津カタログ)と月の遠地点の周期との関係。(左)縦軸は地震の個数。横軸は発生時間のずれを年の単位で示したもの(nは整数)。右図:地震の分布。太平洋プレートに関連するものとして、日本海や紀伊半島沖の深い地震も含めた。次の確率のピークは2020年頃, 2029年頃, ...と続く。赤丸はKatsumata (2011)により地震の静穏化が指摘されているところ。