研究計画 - 超深度海溝掘削

研究計画

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 本領域では、「海溝型巨大地震の新しい描像」を得るという目的達成のために、3つの研究項目を設ける。それぞれの研究項目は相補的な2つの計画研究から構成される。

研究項目A :南海トラフ地震発生帯の大 局構造の把握と海底面変動の理解
 計画研究A01:巨大地震断層の3次元高精度構造と物性の解明、A02:高精度変動地形・地質調査による巨大地震断層の活動履歴の解明
研究項目B: 断層の物質と力学的・水理学的性質の理解
 計画研究B01:巨大地震断層の力学的・水理学的特性の解明、B02:巨大地震断層の物質科学的研究によるすべりメカニズムの解明
研究項目C: 地震準備発生過程のモデル構築と検証
 計画研究C01:孔内実験・計測による地震準備過程の状態・物性の現場把握、C02:海溝型巨大地震の地震準備・発生モデル構築

計画研究A

計画研究A01:巨大地震断層の三次元高精度構造と物性の解明

【研究内容の概要】
 2006年、既に日米共同で南海トラフの掘削地点をカバーする三次元反射法データを取得済みである。南海トラフ地震発生帯掘削ステージ1によって、巨大地震断層を中心に深度方向の連続的コア試料と孔内検層データを取得しており、今後も引き続き掘削が実施される予定である。本計画研究では、三次元反射法データを用いた高精度地殻構造イメージング処理を行い、巨大地震断層の三次元構造を明らかにする。また、掘削孔を用いたVertical Seismic Profiling(VSP; 鉛直地震探査)実験を行い、巨大地震断層の物性をマッピングする。更に、三次元反射法データとVSP データ・掘削データ(コア試料と検層データ)との統合解析から、計画研究A02やC01の観測・計測結果と合わせて、巨大地震断層に沿った流体の空間分布や間隙水圧分布を明らかにし、海溝型巨大地震のメカニズムを規定する流体挙動を推定する。もって、他の計画研究と密接に連携し、本領域の全体的な目的である海溝型巨大地震の準備・発生過程の解明に貢献する。

計画研究A02:高精度変動地形・地質調査による巨大地震断層の活動履歴の解明

【研究内容の概要】
 南海トラフの海溝陸側斜面の複雑な地形は、繰り返し活動する断層の変位の累積と不安定化した斜面の崩壊による改変の結果であると考えられる。南海トラフ地震発生帯掘削ステージ1では、実際に多数の地すべり堆積物とそれらを切断する複数回の断層運動が認められた。また、断層上盤浅部に強い振動を示唆する特徴的な変形構造が確認された。すなわち、変動地形・浅部変形構造には最近の断層活動の情報が記録されていると言える。本研究では従来にない高精度で、変動地形と地下構造を探査し、断層変形と地すべりの形態を把握するとともに、精密照準の表層柱状採泥を多点で行う。これにより掘削で得られた深度方向のみの情報を面的に広げ、断層の変位・活動履歴の解明を行う。また、海底湧水の量・化学組成の変動観測から地下の流体挙動の変化を明らかにする。計画研究A01の3次元構造、計画研究C01の孔内観測結果との比較を行なうとともに、他の計画研究の成果と結合し、本領域全体の目的である海溝型巨大地震の準備・発生過程の解明に貢献する。

計画研究B

計画研究B01:巨大地震断層の力学的・水理学的特性の解明

【研究内容の概要】
 南海トラフ地震発生帯掘削では、巨大地震断層であるプレート境界断層及び巨大分岐断層の地震発生域における原位置コア試料、および掘削地点における深度方向の連続コア試料が得られる予定である。本計画研究では、これらの掘削コア試料の原位置条件における変形実験と透水実験を行い、地震発生域における断層の力学的・水理学的性質や、付加体内部における力学的・水理学的性質の深度変化を明らかにし、計画研究B02で解明されるコア試料の物質科学的解析結果と合わせて、沈み込み帯における地震発生条件や地震発生過程の解明に向けた研究を行う。また、実験から得られた巨大地震断層と付加体内部の力学的・水理学的性質を、計画研究C02で実施される沈み込み帯における巨大地震準備・発生過程の数値モデリングに必要な情報として提供し、本領域の全体的な目的である海溝型巨大地震の準備・発生過程の解明に貢献する。

計画研究B02:巨大地震断層の物質科学的研究によるすべりメカニズムの解明

【研究内容の概要】
 南海トラフ地震発生帯掘削では、地震断層であるプレート境界断層及び巨大分岐断層の地震発生域と非発生域それぞれにおけるコア試料が一部得られ、今後、多数採取される予定である。本計画研究では、この断層試料の変形組織の解析、鉱物学的、化学的分析を通して、すべりに伴う諸反応を明らかにし、地震性、津波発生性、非地震性すべりについて、すべりのメカニズムと破壊伝播過程、エネルギー散逸過程を解明する。また、掘削による断層試料の解析・分析に加えて、断層の上盤と下盤を構成する岩石の変形機構―流体相互作用を解明、ひずみエネルギー蓄積・解放の物質科学的過程についても解明する。以上の結果を他の計画研究と密接に連携させ、本領域の全体的な目的である海溝型巨大地震の準備・発生過程の解明に貢献する。

計画研究C

計画研究C01:孔内実験・計測による地震準備過程の状態・物性の現場把握

【研究内容の概要】
 南海トラフ巨大地震断層やその上盤の物性・状態を把握するために、応力・間隙圧・温度等、断層および周辺の変動に寄与するパラメータを現位置で計測する。南海トラフ地震発生帯掘削ステージ1では、検層・コアの両方で応力情報が得られ、分岐断層をはさんで水平最大応力の方向が90度変わること等が判明した。これを発展させ、これまで海底下では直接測定されたことのない応力計測を実施し、封圧と最大圧縮応力を推定する。注水実験・リークオフテスト等により現場透水率やスケンプトン定数を求め、間隙圧・温度データと併せて流体移動や体積歪変動を推定する。また孔内検層によるS波・孔内表面波速度の高精度計測から、剛性率・ポアソン比を求めると共に、能動実験により断層付近の微視的構造を求める(計画研究A01と連携)。これらの現場実験を通じて間震期の状態変化・物性モデルを構築し(計画研究C02と連携)、もって本領域全体の目的である海溝型巨大地震の準備・発生過程の解明に貢献する。

計画研究C02:海溝型巨大地震の準備・発生過程のモデル構築

【研究内容の概要】
 本研究計画の他の研究班によって南海沈み込み帯浅部での詳細な構造(物性、温度、応力、断層幾何学など)が明らかになる。これは巨大地震発生地域における構造情報として世界に類を見ないものである。本計画研究では、この貴重な情報に基づいて海溝型巨大地震の準備過程および動的破壊過程のモデル構築を行う。まず地殻浅部での複雑多様な変形過程を様々な角度から数値モデルで表現する。それには南海沈み込み帯に特徴的な付加体の形成・変形過程、長期間の応力変化や温度進化、低速変形と動的高速変形の関係などが含まれる。モデルに基づいて海溝型巨大地震に至る過程の予測可能性評価を行うとともに、その知見を進行中の掘削孔内での長期モニタリング戦略にフィードバックする。以上により、本領域の全体的な目的である海溝型巨大地震の準備・発生過程の解明に貢献する。