地震・津波記録

海洋プレートの沈み込む海溝域で発生する地震と津波は、放出されるエネルギー・被害とも他と比較にならないほど大きいものです。

これまで繰り返し発生し、多大な生命と財産が失われ続けてきた。南海トラフで起こる地震・津波は、1300年を超える、世界で最も長い繰り返し発生の歴史的記録があります。そして今後30年以内に再び起こる可能性が極めて高いと評価されているます(文部科学省地震調査研究推進本部)。

この地震・津波の原因を科学的に明らかにし、発生予測の向上につなげることは科学のみならず、人類の悲願であると言っても過言ではありません。

 

 

 


世界最長の南海地震繰り返し記録

図はクリックすれば拡大します

 

 


遠・近・直接観測

これまで:以下のような世界最稠密の観測が行われました。

・3次元構造
・プレート境界断層周辺の間隙水圧分布
・地震発生プレート境界断層面上の異常間隙水圧分布
・ゆっくりすべり地震検出

これから:世界初の発生前切迫度評価研究を行います。

 

 

 


図はクリックすれば拡大します

 


統合国際深海掘削計画における直接観測・断層試料回収

計画期間の2007年から2014年に

・10航海
・15ヶ国195名の研究者が乗船
・13ヶ所の掘削
・掘削最深は海底下3,058m
(世界記録)
・100編以上の論文公開
・木村学ほか本研究代表分担者が首席研究者として乗船

最大の成果の一つ:地表近傍のプレート境界断層、分岐断層に
発熱高速すべりの明確な証拠を発見。

中央防災会議において
南海トラフ最大すべり・津波予測が変更、 Mw 9.0へ

 

 

 

 

図はクリックすれば拡大します


 


社会的・国際的背景

日米欧など25ヶ国が参加する統合国際深海掘削計画(IODP; 2013年から国際深海科学掘削計画)では、日本が世界に先駆けて建造したライザー装置搭載の地球深部探査船「ちきゅう」による「南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)」を承認し、2007年9月から掘削研究を実施してきました。

これまで13地点で掘削を行い(「研究目的」図1, 2)、のべ230名の研究者が参加し、総延長35 kmにおよぶ掘削が施されました。

IODPでは掘削経費と乗船費のみが手当てされるだけなので、そこに参加する日本チームの関連研究を推進するために新学術領域研究「海溝型巨大地震の新しい描像」(平成21~25年度;代表木村 学)が実施されました。

東日本大震災によって「ちきゅう」が一部破損したことや、日本海溝で緊急掘削が実施されたことでNanTroSEIZEの掘削計画に若干の遅れが生じましたが、2014年7月に開催された文部科学省海洋開発審議会海洋開発分科会は、プレート境界までの掘削目標を達成して地震・津波研究を飛躍させることを強く求めています。

この掘削研究は、従来の地球物理学に基づいた地震研究の枠組みを大きく超えて、地質学、物質科学などの分野を大胆に融合させることとなりました。
その結果、南海トラフにおいても東北地方太 平洋沖地震と同様、過去にプレート境界の滑りが海溝まで達したことが実証されました(Sakaguchi et al., 2011, Geology;  Yamaguchi et al., 2011, Geology)。

この研究成果を受けて、中央防災会議では直ちに南海トラフで起こる地震・津波の最大規模が見直され、防災対策の再検討へとつながっています。

 

 

 

 


地球深部探査船「ちきゅう」


 

 


科学的背景・既存研究の到達点

2007年からの掘削研究において、以下の事が明らかとなりました。
これらは日本がリードしてきた海溝型地震・津波の最先端の研究成果です。

ほとんどの掘削地点で水平最大圧縮主応力軸がプレートの相対運動の方向と一致すること(Lin et al., 2010,GRL)

低い応力レベルでゆっくり地震が誘発されていること(Ito et al., 2009, GRL)

プレート境界断層に近づき、かつ時間的にも地震発生が近づくと水平最大圧縮主応力は徐々に増し、水平最大圧縮主応力=最大圧縮主応力になると予想されること(Saffer et al., 2013, G3)

プレート境界での粘土鉱物の含有率が増大すると摩擦強度が低下すること(Takahashi et al., 2014, EPS)

秒速cm程度の滑り速度になると物質に関わりなく断層は全て弱化し、地震・津波発生の原因となること(Di Toro et al., 2011, Nature)

 

掘削は継続し、2017~2018年にはいよいよIODP掘削地点C0002において、海底下約5200 mのプレート境界断層に到達予定です。