南海トラフでは今世紀中に地震・津波の発生する可能性が極めて高いと懸念されます。

本研究では、これまで紀伊半島沖熊野灘において実施されてきた南海トラフ地震発生帯掘削研究(超深度掘削は海底下約3000 mまで掘削済みでプレート境界断層まで残り約2200 m)の総仕上げとして、以下を実施します。


プレート境界断層貫通掘削までの掘削時孔内検層
孔内設置受振器による3次元鉛直地震探査
断層試料の摩擦実験
近傍からの繰り返し周回地震探査

これにより

南海トラフプレート境界断層上盤の応力と間隙水圧をもとめる
プレート境界断層の摩擦強度を解明する

もって地震・津波発生切迫度を定量的に評価することに挑戦します。

 

 

 


研究期間内に何をどこまで明らかにするか

本研究では、紀伊半島沖のIODP掘削地点C0002(図1, 2)におけるこれまでの掘削(~海底下約3000 m)および今後の超深度掘削(~海底下約5200 m)により実施される、孔内検層・計測、掘削試料の測定・実験、および地震探査に基づいて、以下の解明を目指します。


・孔内検層・計測、掘削泥水漏洩観測、掘削コア試料擬弾性変形、および3次元鉛直地震探査に基づいて、プレート境界断層上盤側の現在の応力場・主応力、および間隙水圧を定量し、プレート境界断層に作用する剪断応力と有効垂直応力(=垂直応力-間隙水圧)を明らかにする。

・回収したプレート境界断層試料の原位置条件における摩擦実験から得られる摩擦係数と上記で得られた有効垂直応力から、プレート境界断層の有効摩擦強度(=摩擦係数×有効垂直応力)を明らかにする。

・以上より得られたプレート境界断層に作用する剪断応力と有効摩擦強度の比(剪断応力/有効摩擦強度)を、地震・津波発生切迫度の定量的指標として明らかにする。

・さらに、毎年実施する周回地震探査によって応力場の変化を観測し、地震・津波観測監視システム(DONET)データの時系列変化と合わせて、切迫度の時間変化の観測可能性も検討する。

 

 

 


図1


図2

図はクリックすれば拡大します

 


本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

本研究は、海溝型プレート境界断層の地震発生帯に世界で初めて掘削を施し、断層現位置観測により、来る地震・津波発生の切迫度を、応力場・主応力と間隙水圧の実測、断層の摩擦強度の解明を通じて定量的に評価しようという独創的な科学的挑戦です。
研究目的が達成されれば、地震・津波発生に対して、計測された物理量を根拠とする切迫度という新しい指標を提供できます。